小説1

□LAST DANCE
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思い返す。

色々なこと。

掴めなかった未来。

掴み損ねた未来。

捨てられない思い出。

捨てたくない思い出。

振り向いてばかりの過去。

振り向かせる過去。


ザックス。

ルーファウス。

レノは思う。

これが運命だというのなら。



「クソくらえだぞ、と」



見慣れた病室。

流れる空気。

誰にも相槌を打たれることもない、レノの呟き。

ルーファウスはまだ目覚めない。

そして月日はあれから一年経とうとしていた。

 
「ルー」

痛々しい包帯を巻いた額を撫でる。

「今日もいい天気だぞ、と」

薄い瞼はぴくりともしない。

「窓、開けようか」

カーテンを開くと、眩しいまでの青が視界を貫く。
空の向こうにザックスの気配を感じた。
連れていかれたあの人。
あの空に飲み込まれた、あの人。

「ルー」

風が金糸の髪を揺らす。
唯一、この人が動く瞬間。

「ルー」

「起きて」

「ルー」

少しやつれた手で、ルーファウスの骨の浮き出た手を握る。

この青い空が曇ったら

「あなたは目覚めてくれますか?」

雨が降ったら

「あなたに逢えますか?」

空の向こう

「いかないで」

「いか、ないで…」

「俺も、連れて」

「置いて、いかないでっ…」

病室には泣き声だけが残った。

「ルーっ…」

どうか置いていかないで。
どうしても行ってしまうのなら、
あの空の果てまで、手を離さないで。

「もう疲れた…」

「一年だぞ?」

「いつまで」

「いつまで待たせるつもりだよっ…」

瞳に映るのは、動きもしない、好きな人。

「バカルー」

泣くのはもう、厭きた。疲れた。嫌だ。

「ほんっとバカ…」

俺もあんたも

「バカ…」

冷たい身体、風に拐われてしまいたかった。
 
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