小説1

□LAST DANCE
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「…なんて」

下を向いたままの顔に前髪が一房落ちる。

「暗いこと考えても仕方ないよな、と」

「ルーファウス、あんたは俺を幸せにしてくれる、そうだろ?」

一年前の日々。
遠くて手が届かない。
思い出すのも痛い、温かな。

「あんたは俺を置いていったり、しない」

そう。

「信じてるぞ、と」



だけどなんでだろうねルーファウス。

居なくなったザックスを想うよりも、

今は目覚めないあんたを待つ方が辛い。



「あれ以上の痛みはないと思ってたのに」

ほんと、

「あんたってすげぇよ」
くくく。
皮肉めいた笑い声が白い壁に叩き付けられて砕けた。
その破片が胸に刺さる。
ゆっくりと蝕んでいく。
哀しみ。
虚しさ。
そういったもの達がレノを襲う。

涙の乾いた頬はもう笑ってなどいなかった。





淡い夢の中、ルーファウスは俺に逢いにくる―…。






「レノ」

「…ルード?」

「唸されていたぞ」

「ん…」

大きな手が頭を撫でる。
駄目だってルード、俺またあんたに甘えちゃう。
ルードが傷付かないようにごく自然に手を避ける。

「許可はとったのか。また看護婦に怒鳴られるぞ」

「うん、今日はここにお泊まり」

許可ならもう半年分とってある。
ルーファウスの側で眠りたい。

「朝一に見る社長の顔っていいんだぞ、と」

いつもの調子でルードに微笑みかける。
その笑顔がルードをより不安にさせることを知らずに。

「朝起きて、社長の寝顔を見てるとまるで一年前みたいなんだ…今にも起き上がって名前を呼んでくれそうな気分になる」

儚い横顔。
崩れて欠けてしまいそうだ。
ルードは黙ってレノを抱き寄せた。

「辛かったら、我慢するな」

「…ぉぅ」

「何の為の相棒だ…」

「充分助けられてるよ…あんたにゃ」

嘘だ。
叫びたい、泣き喚きたい、怒鳴って汚く罵って全部ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。

でも、ルード。

間違ってもあんたを巻き込んじゃいけない。
何があってもあんたには迷惑掛けたくない。

死に物狂いで押し進む現実。
俺はいつだって独り置いてけぼり。

 
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