書架
□狂猛
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夜の涼しさで、体に籠もった熱を空に放出させる。
毎度おなじみのハードワークから解放され、一人になれる帰り道が唯一心安らぐ時間だ。
「若いからってこき使って良い訳じゃないだろ・・・」
などと、姿の見えない上司にぼやきながら歩みを進める。
俺の名前は馬渡直晃。田舎から中央の某国立大学に入って、今は警察官をやっている。仕事柄、盆暮れ正月関係ないのだが、実家の厳命で、親族のほぼ全員が集まる正月には家に戻るようにしている。
まあ、そんな堅気な生活をしていたら、浮いた話など有るわけもなく、
「十時か」
帰宅時間がこんな時間になっても、家で待っている人は居ないという構図になる。
「・・・・・・」
いつも通リの重苦しい動きでドアを開けると・・・・・・
「ぇ?」
反射的にドアを閉めて、表札を確認する。
馬渡。俺の家だ。
「ーーー」
一瞬だけ見えたさっきの光景を反芻する。
現状の俺にはあり得ない、新婚のような光景。エプロンをつけた女性の後ろ姿。
空き巣にしてはリラックスしすぎている。部屋を間違えたとしても、分からないはずがない。まして、こんな夜に料理って・・・・・・
「あ、直晃さん、お帰りなさい」
「・・・・・・・・・」
意を決してドアを開けた俺は、絶句した。
お帰りなさい、と振り向いた女性は、従妹の真奈だったからだ。