Syusai-S-


□いつから君を
1ページ/1ページ

「あ……アイツ、また来てる」

朝起きて、いつもの様に朝食を食べ、制服に着替えてカーテンを開けて。
そんな日常過ぎる日常に、一つだけ非日常があった。
カーテンを開けて外に目をやった先に
数日前しつこく漫画家になることを誘ってきた
学年一位の高木秋人が立っていた。
初めて彼を目撃した時は何をしているんだと思ったが、
目が合うと恥ずかしいくらい大仰に手を振られ、最高を待っているのだとわかった。
だが二人は毎朝一緒に学校に通うような仲ではないし、
そもそも迎えに来てくれなんて頼んでいない。
最高は家を出て秋人の横を通りすぎようとしたが、
サイコー、と名を呼ばれると同時に腕をつかまれて仕方なく立ち止まった。

「……なに?」

顔にも声にも拒絶を滲ませると、
秋人はそれに気付いているのかいないのかにっこりと微笑むと

「学校。一緒に行こうぜ」
「……なんで」
「なんでって、俺達、将来を誓い合った仲だろ」
「誓ってねーし!」

最高は苛々して秋人の腕を振りほどくと、一人で学校への道のりを歩き出した。
すると後ろから慌てて秋人が追いかけて来て、
引きはなそうと歩を速めるが中々後ろの気配は消えない。

「付いてくんなっ!」

最高は勢いよく振り返り、秋人に一喝した。
さすがに何処かへ消えるだろうと思った最高の読みは外れ、
秋人は最高が立ち止まったのを見逃さず無理矢理肩を組んできた。

「そんなつれないこと言うなよサイコーちゃん」
「その名前で呼ぶな!」

最高は秋人の腕から逃れようとしたが、それを予想済みだった秋人は
開いた方の腕を最高の腰へ回し、道のど真ん中だというのに最高を抱き締めた。

「……っ?!」

驚きで頭が真っ白になって言葉が出なくなる。
しばらく放心していたせいで、
最高が秋人がなにかをずっと連呼しているのに気付いたのは、
遠くから学校の予鈴が聞こえてきた頃だった。

「……きだ。好きだ、好きだ!」
「は、はぁ?!お前、頭おかしいんじゃ……」
「好きなんだよ、サイコーのことが!」
「え………」

最高は秋人の真剣な眼差しを直視出来なくて、道に転がる空き缶へ目をやった。
それでも秋人は最高を見つめ続け、もう一度ゆっくりと好きだと呟いた。
最高はその声にどきっとして、苦しくなる呼吸を
いつもより速く歩いたせいだと決めつけて誤魔化した。
秋人がおかしい、最高もおかしい……。
男相手に告白している秋人もおかしいが、それに胸を高鳴らせている最高もおかしい。
何より、こうやって抱き合っている二人が一番おかしかった。

抱き合ったせいで、触れてしまった秋人の胸から伝わってくる最高と同じ鼓動。
自覚してしまったこの気持ち。
自分はいつからこの男を、高木秋人を好きになってしまったのだろう。
ゆっくりと背中に腕を回してみると、
嬉しさを表すように秋人がもっと強く最高を抱き締める。
互いの熱に陶然としながら、二人は鳴り響く本鈴を意識の淵で聞いていた。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ