Syusai-S-


□覚えてるよ
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「原稿持って来てくれ。もうシュージンにしか頼めない」
「サイコー……。でも、」


最高が入院した。
全ては秋人の責任だった。
秋人が漫画家になんか誘わなければ、最高が入院することなんかなかったはず。
そう自責しながら暗い夜道を自転車を引いて歩いていた時、携帯に電話がかかってきた。公衆電話だ。
相手は最高で、入院しているくせに原稿を持って来てくれなどと言い出す。

そりゃあ、可愛い最高の頼みなんだから叶えてやりたい。
けれど今回ばかりは無理だ。
もし最高に無理をさせて病状が悪化したら。
それこそ、本末転倒というものだ。
それに、秋人が精神科に通うことにもなるだろう。

などとつらつら考え、秋人は最高に持って行けないと謝ろうとした。
が、その時ふとあることが秋人の頭に浮かんだ。

「……シュージン?」
「なぁ、サイコー。病院内では携帯の電源を切っとかなきゃ駄目なんだよな」
「? そうだけど。つかそんなことより、早く原稿持って来いよ」
「サイコー…………。俺もだよ!愛してる!」
「はっ………、はぁっ?! 意味わかんねーっ。何が俺も、なんだよ」

最高が顔を真っ赤にして慌てふためいている姿が脳裏に浮かぶ。
秋人は携帯を握りしめて、優しい声音で最高に言った。

「サイコー、俺の番号暗記してるだろ? じゃなきゃ病院の公衆電話からかけられるはずない」
「…………っ!」

図星だったのか、最高が黙り込む。秋人はにやにやと最高の返答を待った。
しばらくして、「あぁ、覚えてるよ……」と小さく聞こえた最高の声に、思わず満面の笑みになる。

「ぁ、じゃあ俺も、って……?」
「そ。俺もサイコーの番号覚えてる。サイコーの番号を鈴木に聞いた時から」
「……ってそんな前から?! ちょっと気持ちわりぃ……」
「ひでー」
「……まぁそういう俺も、シュージンから初めて電話もらった一ヶ月後には、もう覚えてたけど」
「サイコー、気持ちわりー」

楽しい。電話だけでもこんなに楽しいんだ。
早く会って話がしたい。だから。

「原稿持って行くよ。サイコーのことなんだから、描かない方が身体に悪いんだろ?」
「うん。……それに、シュージンに会いたいし」
「………! 俺も、会いたい」

今日は早く寝て、明日誰よりも早くサイコーに会いに行こう。
秋人は電話を切ると、自転車をいつもより速くこいで家へと急いだ。


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