リクエスト

□知紀様
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「くそっ」
怒声と共にジャンプが壁に投げ付けられ、床に落ちる。
ページが開かれたまま横たわり、それを睨み付けると
そのページに繊細に描かれたキャラと目が合った。

「亜城木夢叶……!」
ぎり、と歯軋りをして、石沢は乱暴な手付きで側に置いてある携帯を手に取った。


*


「あ、電話……」
「亜豆?」
「いや、………石沢」
「はっ?! おい、やめとけって……」
「大丈夫。……出るぞ」

正直に言うと、最高は石沢が嫌いだ。
中学の時に難癖を付けられたのもあるが、何よりあの傲慢な態度が好きになれなかった。
それは秋人も同じらしく、顔を不機嫌に歪めて電話を切るように促す。
それを大丈夫だと断って通話ボタンを押し、最高は恐る恐る耳に携帯を当てた。

「はい……」
「真城? 久しぶり。中学の卒業式以来だな。漫画、読んでるよ」
「……何の用だよ」
「つめてーな。折角電話してやったのに。それとも連載作家さんは忙しくて俺なんかかまってる暇はないとか? はっ、よく言うよ」
「黙れ」

最高の顔が険しくなったことで、秋人が心配そうに口の動きだけで替わろうかと言う。
それを手で制すと、最高は携帯を強く握りしめて息を吸った。

「石沢には関係ない。もし邪魔する気なら、もう俺達に関わらないでくれ」

沈黙。もしや切れたのではと思い画面を見ると通話中の文字。
もう一度「石沢」と呼び掛けると、低い笑い声が聞こえて
最高はびく、と肩を揺らした。秋人が最高の肩に手を添える。

「ははっ、そっか。俺は邪魔者ですか。プロは忙しいもんな。こっちは連載どころか編集に見てももらえないのによっ!」

そう叫ぶとぷつり、と電話は切れ、後は虚しい音が規則的に響くだけだった。

「……切られた」
「いきなりなんだったんだろうな」
「さあ……」

ただの嫌がらせ。それならまだ良かったのに。
最高は携帯を投げ捨てるように原稿の横に置いた。

元よりあまり関わりのなかった相手。
気にする方があほらしい。
最高は雑念を振り払って、目の前の原稿に集中した。


*


「まただ……」

最高はもう何度目か分からないため息をついて通話ボタンを押した。
電話をしてきたのはまたしても石沢。
あの日以来、ほぼ毎日石沢は最高に電話を掛けてくるようになった。
内容は決まってTRAPの駄目出し。
最高の絵をけなされるのならまだいいが、話をけなされては頭に来る。
最高は毎日石沢に反論し、そのことを秋人に言えずにいた。
石沢なんかに翻弄されてほしくはないから。

「またかよ。関わらないでくれって言ってるだろ」
「何でだよ。一読者としてアドバイスしてやってる俺に関わるな? 言うようになったよな。昔は高木の言いなりだったのに」
「言いなりなんかじゃないし、高木は俺に命令もしない」
「あー、はいはい。なぁ、今度会わねぇ? もちろん二人でだよ。電話してたら久々に顔見たくなったしさぁ」

石沢の声が高揚している。
怖い。ただ会うだけではないだろう。
自分が連載出来なかった腹いせに殴られるのだろうか。
それとも漫画が描けなくなるように利き手に何かされるのだろうか。
どちらにしろ石沢が何か企んでいるのは間違いなかった。
こんな誘い、断るに決まっている。
けれど、会わなきゃ高木にも電話すると言われては、断れるはずもなかった。
秋人には頑張ってほしかったから。
石沢なんかのせいで調子を崩してほしくない。

最高は会うなら今から、と石沢の誘いを受け入れた。



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