リクエスト

□えいじ様
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チャイムが授業の終わりを告げる。
秋人は鞄に荷物を詰めると最高の元へ行き、座っている彼の肩に手を置いた。

「サイコー。仕事場行こうぜ」

いつもと同じ様に誘った。
だが最高は申し訳なさそうに眉を寄せ、開いていた教科書を秋人に見せた。

「悪い、今日追試なんだ……。先に行ってていいよ」
「え、そうなの? なんなら、終わるまで待つぞ?」
「いいって。終わったらすぐ行くから。ネームだけでも進めといた方がいいだろ」
「……わかった。じゃあ先に行っとく」
「おう」

秋人は渋々了承し、教室を出た。
最高の追試が終わるのは恐らく一時間後。
最高が来た時にすぐネームを渡せるようにしておこう。
いつもは最高と談笑しているから気にならなかったが、一人だと帰り道がこんなに長かったことに驚いた。
仕事場に着いていつものようにネームを書き出したが、やっぱり寂しい。

「サイコー……、早く帰ってこい……」

時計を見ると最高と別れてからまだ30分しか経っていなかった。


*


「はー、追試ってほんとだるいな。シュージン、遅れてごめん……って、わっ?!」
「サイコー! お帰りっ!」
「ちょっ……、離れろよっ!」

最高が抱き付いてきた秋人に驚いて目を見開く。
秋人は何時間かぶりの最高の感触と匂いに、思いきり息を吸い込むとちゅっと軽くキスをした。

「なにしてんだよ……っ! バカ……ッ!」
「キスしてんだよ」
「んなのわかってるっつーの! ネームは? ちゃんと書いた?」
「書いたよ。サイコーが帰ってきたら直ぐ清書出来るように」
「あー……。そっ、か……」
「サイコー?」

歯切れの悪い最高に秋人は違和感を感じた。
それに、最高はさっきからずっとそわそわしていて何処と無く不自然だ。
時計を何度もチラ見しているし、何か大事な用でもあるのだろうか。

「どうした?」
「いや、あの…さ。追試を一緒に受けてた奴等が、追試組で勉強会しようって言い出してさ」
「は?! まさか行くっつったのか?」
「……うん」

最高が頷いて片目をすがめる。
その様子から最高が自分の意思で勉強会に参加することを決めたわけではないと分かった。
最高が断ったところを何かと詭弁を並べて無理矢理誘ったのだろう。
最高は「めんどくせ……」と不服な表情で鞄を降ろし、中身を勉強会仕様に入れ換えると秋人を見た。

「ネーム、見れなくてごめんな? すぐ帰るから」

そう言って玄関へ向かおうとした最高の腕を、秋人は力強くつかんで彼を引き留めた。
最高がなんだという顔で秋人をうかがい見る。

「シュージン?」
「行くなよ……」
「じゃあシュージンも一緒に来る? 追試組じゃないから、うざがられるかもしれないけど」
「そうじゃなくて。……サイコーが他の男と話してんのが嫌なんだよ」

目を伏せてぽつりと呟く。
秋人の言葉に最高が固まった。
いつまで経っても返答の無い最高に痺れを切らし、彼を見上げると最高は何だか嬉しそうな笑みをたたえて秋人を見ていた。

「サイコー?」
「わかった。勉強会行くのやめる」
「え?」

最高はソファーに座って携帯を出し、勉強会に参加する誰かに断りの電話をする。
行けなくなったと本当に用件だけを伝えて最高はパチンと携帯を閉じた。
そして身体をひねって玄関付近で立ち尽くしていた秋人を見遣る。

「シュージン。ここ、来て」
「お、おう」

最高が自分の隣を叩いて秋人に座れと促す。
言われるままに座ると、最高は持っていた携帯を無造作に投げ捨てて秋人にキスをした。
ちゅっ、と軽く音をたてて唇が離れる。
なに、と問う間もなく再びキスをされて、秋人はただただ瞬きをするだけ。

「………サイコー? どうした?」
「いや。嫉妬してくれて嬉しいなーと思って」

そう言ってにこ、と笑うと、最高は秋人の膝の上に移動した。
窺うように秋人を覗き込んで意味深な笑みを浮かべる。

「ねぇ、シュージン」

しよう?
吐息だけで囁かれて、秋人はごくりと生唾を飲み込んだ。


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