リクエスト
□誰のでもなく、
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「………福田さん、朝ですよ」
「あー? まだ6時じゃねーかよ。もうちょっと寝ようぜ」
「俺、学校ありますから!」
「ああ、そうだった。学校まで送ろうか?」
「送るってバイクでしょう……。目立つんで遠慮しときます」
「おー」
頭をガシガシとかいている福田さんに微笑み、俺はあらかじめ用意しておいた制服と通学カバンを持って福田さんの家を後にした。
福田さんの家から学校に行くのは初めてではない。
遠いから電車を乗り継いで行かなきゃいけないけれど、大好きな彼が呼ぶのなら俺は平日でも会いに行った。
勿論シュージンにこのことは言ってない、ていうかシュージンは俺のことが好きらしいから、こんなこと言ったらぶちギレるかもしれない。
「ちゃんと断ったのになあ……」
はあ、とため息を吐いて俺は相方の顔を頭から追い払った。
*
「はよ、サイコー遅かったな」
「うん、まあ……」
朝からべっとりとくっついてくるシュージンを適当にかわして席へ向かう。
少し前までは一緒に学校に行っていたけれど、福田さんの家に行くことも多くなってきたし、何よりシュージンと一緒に行くと延々と好きだの愛してるだの聞かされるからうざくて仕方がなかった。
席に着いて襟元を緩める。
まだ4月だというのに、気温は高く暑さに耐えられなかった。
相変わらず俺を追って笑顔で何かをしゃべっているシュージンの顔が一気に強張った。
何かと彼を上目遣いで見上げると、シュージンは「ちょっと来い」と俺の腕を引っ張ってトイレへ向かった。
「………なんだよ、」
「それはこっちの台詞だろ。なんだよ、それ」
シュージンが指差すのは俺の首元。
何かと思って鏡を見れば、そこにははっきりと福田さんとの行為を示す痕が残っていた。
しまった、と襟を引き寄せても既に手遅れ。
「誰?」
「………シュージンには関係ないだろ、」
「関係あるんだよ!」
シュージンが思い切り壁を殴り付け、俺は驚いて肩を揺らした。
こんなに怒っているシュージンは初めてだった。
いつも穏やかな笑顔で俺に接してくれていたのに。
思わず数歩後ずさる。
そうすれば距離を詰めるように近寄られて、俺は怖くなってシュージンから視線を外した。
「なあ? 誰とヤッたんだよ」
「………言いたくないし、誰とヤろうが俺の勝手だろ?」
「相方に隠し事なんてしてたら、漫画なんてかけないぞ」
「なんで全部お前に言わなきゃいけないんだよ! じゃあさ、お前は俺に何一つ隠し事してないって言うのかよ?」
「ああ。俺は隠し事なんてしてない」
そう言い切ったシュージンに、俺は震える身体を無視して笑った。
「は、嘘じゃん。見吉と公園でキスしてたくせに?」
「…………、」
「最低だな。じゃあ、俺戻るから」
「待てよ、」
「まだ何かあんのかよ」
「………福田さん、だろ?」
「っ…………」
違う、って言えばいいのに、驚きで声が出ない。
「やっぱりな」と呟いてシュージンが俺に近付く。
それから逃げるように俺は走って、カバンを手に取るとまだ授業も始まっていない学校を抜け出した。
「なんで……、なんでシュージンには隠せないんだよ………」
思えば、今までシュージンに隠し事が出来たことなんて一度もなかった。
なんで。怖い、怖い、怖い。
気が付けば電車に乗っていて、俺は福田さんの顔を思い浮かべながらシュージンのことを忘れようとした。