過去拍手

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「高木ー。宿題写させてくれ!」
「嫌だね。自分でやれ」
「なんだよ、ケチ〜」

授業の直前の放課。
学年全体に知れ渡る秋人の秀才ぶりは本物で、何かと秋人を頼る生徒も少なくはない。
宿題をやって来ない奴は大抵秋人に泣き付くが、
そんな奴に同情してノートを見せてやるほど秋人は優しい人柄ではない。
そもそも自業自得なのだから秋人が助けてやる義理はどこにもないし、
見返りだってないのだから秋人はなにも悪くはない。
そういう理由で、今まで誰にもノートを貸したことなんてないというのに、
何度も泣き付いてくる奴はどうかしている。
ため息をつきながら次の授業の準備をしていると、
側に人の気配がして秋人は顔を上げた。
そこには珍しく困った表情をした最高がいた。

「サイコー?どうした?」
「え、うん……。えっと、お願いがあるっていうか……」

最高が秋人に頼み事。
珍しいこともあるもんだと秋人は少なからず驚いていたが、
最高の困り方が尋常ではないので秋人は最高の頼みを聞く態勢に入った。

「なに?」
「次の授業さ、宿題があったよな……」
「ん、あるよ」
「その、俺……宿題を……」

(なるほど、宿題を忘れたのか)
自分が情けない、という顔をして歯切れ悪く最高がしゃべるもんだから、
秋人は最高の頼みたいことがすぐにわかってしまった。
きっと秋人が今までに何度も宿題の頼みを断っているのを目撃し、
あまつさえ人に宿題を見せてもらうなど最高自身の性格が許さないだろうから、
こんなにも言いにくそうにしているのだろう。
秋人は最高に気付かれないよう苦笑し、彼の言葉を待たずにノートを差し出した。

「ほら、ノート。チャイム鳴るまでに返せよな」
「! ありがとっ!」

最高はまさか貸してもらえるとは思っていなかったらしく、
ノートを受けとるとしばらく秋人を見つめたまま放心していた。

「はやく写さねえと間に合わねえぞ」
「あっ、そうだな。じゃ、ちょっと借りてく」

今度は隠さずに苦笑して最高に言うと、
彼は弾かれたように返事をして慌ただしく席へと戻って行った。
前々から思っていたのだが、最高が走ると
アホ毛が上下にぴょこぴょこと動いてなんとも可愛らしい。
それに加えて最高は今時珍しいくらいの純情男子だから、
一々反応が面白くて仕方がない。
歩いている時に少し手が触れてしまっただけでも頬を染めるし、
あっち方面の知識も浅いところが余計に秋人の嗜虐心を擽る。
無知をいじめてしまいたくなるのは秀才の性質と言っても過言ではないだろう。
なんていうことを考えていた秋人だったが、四方から視線を感じるとゆっくりとそちらへ目を遣った。
そこには先程秋人にノートを頼んだ男子がいて、じとっと秋人を睨んでいた。

「真城だけ特別扱い?つーか、お前ら最近仲良いよな」
「それ俺も思ってたー。なんも接点なさそうだけどな」

以前ノートを断られた奴も加わり、秋人は数人から詰問を受ける羽目となった。
学年トップの秀才と、チャラい奴等とつるんでいた今時な男子。
二人の接点はどこにも見えず、急に仲良くなった最高と秋人に
疑問を持つ者は存外多かったらしく、秋人は内心しまった、と後悔した。
最高は二人の秘密な関係を少しでも周囲に知られることを極度に嫌っている。
下手なことを言えば噂となって広まり、最高が嫌な思いをするのは目に見えていた。
秋人は適当に相槌を打ちながら、その反面で公認の仲にもなりたいと思っていた。
が、優先すべきは愛しい恋人の意見。

「真城は特別。お前らと違ってちゃんと忘れたことを反省してるしな」
「はぁ?俺等だって反省してるしー」
「はいはい」

こりずに最高との関係を問いただしてくる輩を適当にあしらっていると、
ノートを写し終わったらしい最高が慌てて秋人の元へ走って来た。

「シュージン、ノートありがとな!……って、お取り込み中?」
「ん、なんでもねぇよ」

そう言って微笑むと、男子からのブーイングの嵐に再びさいなまれる。

「真城いいなー!ノート見せてもらえて。高木のお気に入りってとこ?」
「お、お気に入り?!」
「あ、わかった。お前らもしかしてホモ?」
「なるほどなー!そういえば体育の時とか、高木いつも真城を見つめてるよな。お熱い視線で」
「……シュージン」
「え……、あはは…」

ついに最高を巻き込んでしまった。
男子達も普段の秋人の最高観察に気付いていたらしいし、
ここまで来ると二人の関係を隠すのは難しいかもしれない。
最高は男子に言われて初めて秋人の観察対象になっていたことに気付いたらしく、
嫌悪を込めた目で秋人を睨んだ。
だが問題なのはホモと言われたこと。
男子達にとってみれば冗談だったのかもしれないが、
言われた瞬間最高はわずかながらびくっと肩を揺らした。
それに気付けたのも普段からの最高観察のおかげ。
まあただの変態だが。

(さあ、なんて返すんだ?サイコー……)

最高はしばらく口をつむいでいたが、
ちらりと秋人を横目で見るとなにかを決意したらしく、ぎゅっと拳を握って顔を上げた。

「そうだよ」
「え、そうって……ホモってこと?」
「ああ」
「サイコー?!」

まさか最高が堂々と秋人との不純な関係を認めるとは思わなくて、
秋人は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
男子達はまさか本当にホモだったとは思っていなかったらしく、
口をぱくぱくとさせている。
最高は構わずクラス中に響き渡るくらいの大声で

「俺と高木は付き合ってる。男同士でも、真剣に好きだから」
「サイコー……」

しん……と静まり返った教室で最高と秋人だけが思いを伝え合うように見つめ合う。
そしてその沈黙を破ったのは最高でも秋人でも、男子達でもなかった。

「そんなの前から知ってたよ」
「……え?」

後ろから聞こえた声に最高が振り返り、秋人も座ったままそちらを見遣った。
そこには何人かの女子が怖いくらいの笑顔で立っていた。

(確かこいつらは、亜豆と仲が良い……)

「真城君も高木君も、学校で堂々といちゃついてるからすぐわかったよ。ね?」
「うんっ。尋常じゃない仲良しさだもん」
「うそ……いつから……」

最高が放心して覇気の無い声を出した。
正直秋人もばれているとは思わなくて、顔には出していないが相当驚いている。
女子達は最高の質問にはっきりと
「最初から!」
と答えた。



「サイコー、今日帰りにデートがてらどっか行こうぜ」
「えっ、やだ」
「ぶっ、高木フラれてやんのー」
「うるせーよ!今のはサイコーの照れ隠し!」
「いや、本音」
「えっ」

最高の一言に、教室中がどっと沸いた。
晴れてクラス公認のカップルとなった最高と秋人は、
こうして教室内でも堂々とくっつけるようになった。
一部の女子には今までも十分すぎるくらい堂々としていたと言われたが、
誰にもとがめられることはなかったので良しとしよう。
完全に引いたであろうと思っていた男子達も、「まあ真城って女子みたく可愛いもんな」
と言ってあっさり二人の関係を認めてくれた。
その言葉に最高は顔を真っ赤にして可愛くねえしと反論し、
秋人はまさかお前も……!と危うく殴りかかるところだった。

今日も二人は仲良しです。

 

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