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「シュージン! パス!」
「おー」

秋人は立ち止まり、ドリブルしていたボールを最高に投げた。
少しだけ上に来たそれを小さくジャンプしてキャッチすると、最高はランニングシュートをして点を入れた。

…………あれ、違和感。

「あっ……!」
「おい高木! なんで相手チームのサイコーにパスしてんだよ! あとサイコーもさりげなく誘導するなっ!」
「いや、ついつい……」
「だってシュートしたかったし」

最高が拗ねたように口を尖らすと、他の男子が「まあサイコーに言われたらパスしたくなるよなぁ」と口を挟んだ。
最高と同じチームの男子達が拳一つ分背の小さい最高の頭を撫で回す。

「高木……。気持ちはわからんでもないが………」
「わり……、」

秋人と同じチームの男子達が同調するように肩を叩く。
最高があまりにも可愛すぎるから、ついパスをしてしまった。
小柄なわりに次々とシュートを決める最高は、なんだか小動物みたいで、パスしてと言われてパスをしない男はまずいないだろう。

「あーあ、高木のせいで負けた。お前サイコーにはデレデレだよな」
「人のこと言えんのかよ」
「ははっ。勿論言えねーさ」
「なんか真城って可愛いんだよなあ」

秋人のチームの男子達がひそひそと最高に聞こえないよう日頃の思いを打ち明ける。
体育教師の方針で、バスケのチームメンバーはくじで決めるが、引く度に男子達が一喜一憂しているのは勿論最高が原因だった。
無論、そんなことは本人のみ知らない。

「お前らさっさとくじ引け。二試合目やるぞー」
「はーい」

先生の声にぞろぞろと集まりだす男子達。
その中に四方八方から話しかけられて正直うんざりとしている最高を見て、秋人は下がったメガネをあげて近寄った。

「サイコー、おつかれ」
「おー。さっきはパスありがとなー」
「……ああ」

けらけらと笑いながら汗を拭う最高に自然と頬が緩む。
軽く肩を叩いて最高にくじ引きを促した。
続いて秋人もくじを引いて、すかさず最高のものと見比べた。

「おっ、赤色。サイコー、次俺と同じチーム」
「げ、マジかよ」
「失礼だなー」
「だってうんざりするほどシュージンとは一緒にいるのにさー」

それを盗み聞いていた男子達がぎろりと秋人を睨み付けた。
それと反して自慢するように笑みを向けると、秋人は最高の背を押してコートに向かわせた。

「なあなあ、真城。いつも高木といて飽きねえの? こいつ傲慢だし嫌な奴じゃんー、」
「お前ら………」

二人の前にはだかって男子達が最高に問う。
一発殴れば、最高に馴れ馴れしくするなということをわからせてやれるだろうか。
そう思って一歩前に踏み出そうとしたところを、最高が進み出て前をふさがれた。

「高木のこと悪く言うなよ。良い奴だから一緒にいるに決まってんじゃん」
「サイコー……、」
「いや、でもそれは真城にだけなんだって」
「そうそう。俺等にはつめてーしよお」
「俺も高木以外には冷たい自覚あるけど?」

最高がさらりと言ってのけ、「シュージン行こう」と秋人の腕をつかんで歩き去った。

「サイコー、俺のことそんなに……!」
「うるさいっ! さっさと試合やるぞ」
「はいはい」

最高の離れた手を今度は秋人がつかみ、周りに見せつけるようにコートへ向かった。


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