黒バス


□残像
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拳を掲げた彼と重なる残像。
僕がかつて求めた光が、今、姿を変えてここにある。


***


「火神くんっ、」
「うわっ?! なんだ黒子か……おどかすなって何度言ったら……」
「火神くんこそ、いい加減慣れてくださいよ」
「あー、わーったよ。怒んなって」
「別に、怒ってなんか、」

撫でるというよりは鷲掴むように頭を掻き回されて、僕は思わず目を細めた。

ああ、どうして君はこんなにもあの人に似ているんですか。


存在の大きさ、バスケのこととなると熱くなって人の話を聞かないところ、僕の頭の撫で方、笑い方。

火神くんは僕を信頼してその拳を突き出す。
僕は?君をあの人の残像と重ねてもう過ぎた過去を幾度となく思い出して。

君は僕を見ているんでしょう。
僕は君を見ていないんですよ。

見ようとしても、浮かぶのは僕をテツと呼ぶあの人の後ろ姿。

火神くんにとって僕はバスケの相棒でしかない。
彼は僕を影という領域に閉じ込めて外に出ることを望まない。

僕は相棒として、君を見ていない。
思慕に近い、バスケとは無縁の世界から君を見ている。

火神くんの望む、影としての僕はここにはいない。


「火神くんは……、好きな人とかいるんですか?」
「は? お前ってそういう話興味あんのか?」
「ないですけど。でも、火神くんの好きな人には、興味があります」

困った表情で頭をかく彼は、僕のかつての相棒と似たところはない。
ボールを手にした瞬間、彼の背は見慣れた背中に錯覚されるのに。

「なんつーか……、まあ、いない、かな」
「そうですか」
「そういうお前は、その……好きな人とかいんのかよ?」

火神くんが僕の乱れた―火神くんが乱したんだけど―髪を直しながら歯切れ悪く問う。

彼に聞こえないように小さく息を吐いて、僕は彼の手をはね退けた。

「わからないです」

彼の呆気にとられた顔は、決してあの人とは似ていないのに。

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