黒バス


□追い求め追い求められて
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「黒子っち………何処?」

君を見付けられない。

「黒子っち………行かないで」

苦しくて眠れない。

「黒子っち、」

逢いたい。

静かに涙を流して。
瞼の裏に、焼き付けた君の記憶を思い浮かべて。

「黒子っち……!黒子、っち………」

何処に行ってしまったの。
君がいなきゃ僕は。


*


「おい黒子。またなんかいるぞ……」
「ああ、ほんとですね」
「ほんとですねって、お前なあ……」

そう言って火神が見遣る先には金髪長身、整った顔立ちで周囲の視線を集める――――


「黒子っち!待ってたんスよ!」
「黄瀬くん………目立つからやめてくださいって何度も言ってるのに……」

はあ、と呆れたようにため息を吐く僕に黄瀬くんは容赦なく抱き付いてくる。

ほぼ190cmある男に思い切り抱き付かれて思わず足がふらついた。
なんとか踏ん張って堪えるけれど、とにかく重い。
まるで飼い主にはしゃいで飛び付く犬のようだ。

この男は加減というものを知らないのだろうか、倒れてしまわないよう必死に足に力をこめていると、途端に背中を何かに支えられた。

「火神くん、」
「黒子が潰れちまうだろ!アホかお前は!」
「えー、火神っちにだけは言われたくないっスよー」
「とにかく黒子から離れろよ」
「…………はあ?」
「っ、」

普段のへらへらとした態度からは想像もつかない鋭い眼光で、黄瀬くんは火神くんを睨んだ。
火神くんも驚いて固まっているらしい。

一旦身体を離して、だけどすぐさま今度は腰に手を回して僕を自分の方へ引き寄せる。

「……アンタ、黒子っちのなんなんスか。相棒だからって調子乗ってんじゃねーよ」
「黄瀬くん、」
「黒子っちは黙ってて」

優しい顔で頭を撫でられながら何も言い返すことが出来なくて、ただ僕は頷いただけだった。

「……いや、今のはどう見たって黒子が苦しそうだっただろ。誰が見てもそう思うだろ」

そう言って辺りを見回す。
忘れていたがここは校門前。最悪だ。
部活帰りで人通りが少ないのが不幸中の幸いと言ったところか。

「黄瀬くん、とりあえず離れてください」
「やだ」
「黄瀬くん………」

黄瀬くんは僕の腰に回した腕により一層力をこめて僕を離すまいとした。

仕方ない。目配せで火神くんに先に帰ってくれと促し、それに頷いて軽く手を振って歩き去って行く彼の後ろ姿を見送ってから、僕は黄瀬くんの背中を数度ぽんぽんと叩いた。

「黄瀬くん、火神くんもう帰りましたよ。ここじゃ目立つんで、何処か別のところに行きましょう」
「あ、じゃあ俺ん家がいいっス!」

ぱああっと見るからに顔を輝かせて黄瀬くんが提案するものだから、よく考えもせずについつい彼の家に行くことを承諾してしまった。

彼が一瞬無表情になったことにも気付かずに。


*


「ねえ、黒子っち?俺寂しかったんスよ。黒子っち急にいなくなっちゃって。どれだけ探したって見つからなくて、」
「………離してください、」
「やだ。離したら黒子っちどっかいっちゃうでしょ」
「さっきから何の話をしているんですか?僕は今、ちゃんとここに……」

泣きそうな黄瀬くんの表情にはっと口をつむぐ。
黄瀬くんは今の僕に話しかけてはいない。
きっと、かつての僕を思い浮かべて。

開花した彼ら。おいていかれた僕。

目を背けて逃げた僕。探し出してくれた君。

黄瀬くんの綺麗な目からぽろぽろと涙がこぼれて顎を伝う。
僕の手首をつかむ手に力がこめられて、彼がつのらせた寂しさを思わせた。

「もう何処にも行かないで。俺の傍にいて。もうおいていったりしないから」
「………やめてください」
「黒子っち」
「そうやって、嘘吐いて、どうせまたおいていくんでしょう」
「黒子っち」
「僕の気持ち、分かりますか?分からないでしょうね。才能に溢れた君………君達には」
「黒子っち!」

ああ、止まらない。
これが僕の思っていた本当の思い。

過去に縛られて、新しい光を追い求めて。

目の前にある君の顔を直視出来なくて目をそらすと、黄瀬くんはようやっと僕の手首を解放してくれた。

起き上がろうとするけれど、すぐに黄瀬くんの離れた手が僕の髪に触れて身動きがとれなくなる。

髪を梳いて、耳に触れて、輪郭をなぞるように彼の長い指が僕の顔をたどる。

首元まで来てその手はぴたりと止まり、軽い力で首を絞めて黄瀬くんはまた涙を流した。

「殺しちゃえば黒子っち何処にも行かないね?何も言えなくなるね?」
「っ、」
「正直黒子っちの気持ち分かんないっス。何でも出来る俺には。だけどね、黒子っちだって、俺の気持ち分かってない」
「黄瀬、く、」

思わず見とれてしまうような表情で彼は僕を見つめる。

首にある手に少し力がこめられて息が詰まる。

首輪を付けられていたのは僕の方。


捨てられた僕を見付け出して拾ってくれたご主人様。


気持ちを伝えたくても、言葉が違うのだから伝わらない。

ならば行動で示そう。
僕の全てを君に捧げよう。


「黄瀬くん、好き」
「くろ、」
「殺してください」

ひゅっ、と彼が息を呑む音が聞こえた気がした。


*


「嫌だ………おいていかないで」

君達には届かない。

「………行かないで」

叫んでも叫んでも遠ざかる背中。

「黄瀬くん、」

君なら。

不確かな期待に身を任せて。
首輪を付けたつもりで君を揺さぶって。

「黄瀬くん……!黄瀬、く………」

やっぱり君は来てくれた。
君がいれば僕は。

もう何もいらないから。


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