Syusai-N-


□彼ジャー
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「……あれ? シュージン、俺の服は!」
「さあ…知らねえよ」

風呂場から聞こえてきた最高の大声。
どうやら風呂上がりに着ようと
置いておいた服がどこかにいってしまったらしい。
寒いだろうから早く服を
持って行ってあげないと。
そう思ったが最高の服がなくなったのは
断じて服から足が生えて勝手に何処かへ
歩いて行ってしまったわけではない。

そう、最高が着ようとしていた服は今、
秋人の手の中にある。
全ては秋人の身勝手な妄想から
始まったことだったのだ。

「ここで風呂場に行って、
サイコーに俺のジャージを着させる。
彼シャツならぬ彼ジャーだ!」
ジャージ―勿論、上着だけだ―の裾から伸びる最高の細い足を想像して
秋人が頬を緩めている間にも、
最高は「早く服持って来い!」と叫んでいる。
秋人は手に持っていた最高の服を適当に隠すと、
ジャージの上着のファスナーを
下ろしながら風呂場へと向かった。

「悪い、寒かったろ? ほら、これ着ろ」
「…………それ俺の服じゃねえ」
上着を脱ごうとすると、腰にタオルを巻いた最高の鋭い眼光が秋人をとらえる。
感の良い最高は、どうやら服がなくなった原因と
秋人の考えに気付いたらしく、
そのままズカズカと風呂場から出て行った。

「おい! せっかく服持って来てやったのに! 俺が来た意味ねえじゃん!」
「シュージンに頼んだ俺が馬鹿だった。
もう口聞かねえ」
「えー! ごめんって!」
慌てて最高の後を追いかけるが時すでに遅く、
最高は秋人が隠した服を直ぐに見つけ、着ている最中だった。

(こんなことなら、ちゃんと隠しておくべきだった……。)
後悔しても何にもならないが、最高が服を見つけ出すことが出来なければ、
そのまま上着を肩にかけることも出来たのだ。
着替え終わった今でも最高の顔には
怒りが浮かんでいて、秋人は思わず叫んだ。

「本当ごめんな! 風邪とかひいたら俺の責任だ……。
彼シャツに憧れてたとか、
本当に馬鹿だよな、俺……」
「……に」
「え?」
「別にこんなことしなくても、
俺にそれ着て欲しいって言ってくれれば……」

湯上がりのせいとは別に顔を赤くしている最高。
今思えば馬鹿な考えだ、と心の中でも
平謝りしていた秋人は、最高の言葉を聞い
て顔を輝かせた。

「じゃ、じゃあ……!」
思わず息が荒くなる。
その秋人の様子を見て、最高はうっと顔をひきつらせると、
不要になったタオルを力一杯秋人に投げつけた。
「や、やっぱり今の無し!
なんか、シュージンきもい!」
「えぇ〜!」

(これ、怯えてるよな、俺に。)

こういうのも悪くはない、とまた妄想に更ける秋人であった。


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