Syusai-N-


□usually love
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服部さんにネームを見せて、オーケーをもらって。
今、秋人と最高は集英社からの帰路についている。
いや、帰路というのは少し語弊があるかもしれない。
何せここは東京。
駅に行くまでの道には沢山の店が連なり、ついつい興味を示してしまう。
だから二人で適当な店をぶらぶらしながらどうでもいいことを喋り、
漫画から解放されたわずかな時間を楽しむ。
最高は、少しデートみたい―秋人には絶対に言わないが―なこの時間が大好きだった。
秋人も見る限り楽しそうではあったが、たまに溜め息を吐いていて、
その度に最高に不安を与えた。

「あ!シュージン!あの店面白そう」
「行ってみるか」

そう言って優しく微笑むものの、秋人はチラチラと腕時計を忙しなく見遣る。
それが嫌で、最高は上から腕時計を隠す様に秋人の手首をつかむと、
近くの店の中へと秋人を連れ込んだ。

「わっ!サイコー?」
「そんなに早く帰りたいのかよ」
「え……」

秋人が見るからに動揺する。
やっぱり、と最高は内心で確信し、一人だけデートみたいだと浮かれていた自分が恥ずかしくなった。
秋人も楽しんでいると思っていた。
集英社へと向かう時とは全く正反対にも感じる帰路の風景。
仕事場にいる時は「仕事」の「場」という言葉に縛られて、
漫画に打ち込み過ぎてしまい、二人でいる意味を忘れてしまいがちだ。
勿論、二人が一緒にいる第一の理由は漫画をかくため。
が、今お互いはは相方であると同時に恋人でもある。
好きな人と一緒にいたいというのは当然。
どちらからともなく仕事場へ誘い、ドアの鍵をきちんとかけて最初にキスをする。
たまに秋人にそのまま情事に持って行かれてしまうこともあるが、そんなのはごくたまにだ。
漫画をかかなくては。
その義務感から、最高はネームをやらずに何かと誘惑を持ちかける秋人に冷たく当たってしまうこともある。
だからせめて今この時くらいは。
そう思っての帰路だった。
本当は店とか風景とかそんなのはどうでもよかった。
ただ二人で純粋に遊びたくて、秋人の歩を遅らせるためにわざとゆっくり歩いたりもした。
そんな最高の思いは届かず、秋人は早く帰ってしまいたいらしい。

「なら帰れよ……。俺はまだここにいるから」
「は?何でサイコー一人置いて、俺だけ帰るんだよ?」
「だから帰りたいんだろ!」
「サイコー、何か怒ってる……?」

窺うように向けられた視線。
怒ってる。それはもう。
最高の気持ちを分かっていないことにも怒っているし、
そんな確認をわざわざしてくることにも腹が立った。

(とっとと帰れよ!)

心の中でそう思った後、実際に言ってやろうと思って最高は口を開いた。
が、もし秋人がじゃあそうすると言って本当に帰ってしまったら。
そう考えると、怖くて言い出せなかった。
恐怖から思わず肩が震え出す。
そしてそれに秋人が気付かないわけがなく。

「サイコー?!大丈夫か?」
「…………か」
「え?」
「馬鹿っつってんだよ!俺はもっとシュージンと普通に遊びたいのに、シュージンはさっさと帰って俺と離れたいんだろ!」
「……は?いや、ちょっと待て。落ち着けってサイコー」
「うるさい!さっさと………っ!」

言ってしまおうか。言ってしまっていいのか。
怖い。一緒にいたい。
素直に言うことが出来たのなら。
なんとも厄介な自分の性格。
こんな最高のどこがよかったのだろう、秋人は。
ふとそんなことを考えていると、
秋人が店内にもかかわらずふわっと最高を優しく抱き締めた。


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