Syusai-N-


□usually love
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「サイコー。俺さ、今サイコーが考えてること分かるかも」
「はぁ?!」

そんなはずない、そう願った。
そして同時に、分かってほしい、そうも願った。
耳元に近付く秋人の唇。
秋人の肩越しに道を行き交う人々の波が見えて、
この空間だけが隔離されているという錯覚。

「俺と一緒にいたい………そうなんだろ……?」
「別に……っ、シュージンとなんか……!」
「素直になれよ、サイコー?」
「……っ!」

最高が図星をつかれて赤面する。
その顔を見られたくないのか、少し俯きがちになっている。
それでも目だけは秋人を窺うように見上げていて、
その仕草は自然と上目使いという可愛いものになる。
秋人は自分の中心が熱を持ってきているのを感じながら、最高の返事を待った。
最高はしばらく上目使いをしたまま固まっていたが、
完全に秋人から目をそらすと、蚊の鳴く様な小声でぼそぼそと呟いた。

「あぁ、いたかったよ。だって俺はシュージンのことが好きだから……。気持ち悪いだろ」
「気持ち悪いわけねーじゃん」
「だって……!」
「サイコー何か勘違いしてねえ?俺が早く帰りたい?サイコーと離れてまで?」
「……帰りたいんだろ?ずっと時計気にしてるし、つまらなさそうだし……」
「あ……。あー、それか……!」
「は?」

恥じらいながらの最高の言葉に笑みが止まらなくなる。
最高は秋人と一緒にいたいと言ってくれた。
今まで行動でそれを示すことはあっても言葉で直接伝えてくれることなんてなかった。
どんなに心の内で想ってくれていたとしても、言葉にしなければ相手に伝わらない。
最高だって馬鹿じゃないから、いや馬鹿でもそのくらいは分かるはず。
それでもここまで口に出すことを拒むのは、彼の性格上仕方のないこと。
秋人にとってはそんな性格の彼が
きちんと気持ちを伝えてくれたことが何より嬉しかった。
だがその後の言葉。
どうやら最高は秋人が時計を何度も盗み見ていたために勘違いをしてしまったらしい。
いや、確かに時間は気にしていたが決して早く帰りたいなどという理由ではなく。

(でも……。ある意味早く帰りたいって意味だよなこれ)

「シュージン?」

最高が再び上目使いに秋人の顔を覗いてくる。
正直、その仕草の連続は理性的にやばいものがある。
秋人は勃ち上がってくる自分のモノを心の内で叱咤して、
最高の頬を両手で優しく包むと、真正面から彼の綺麗な瞳を見つめた。

「怒らずに聞いてくれよ。……俺、確かに早く帰りたかった。でも、それはサイコーと離れたかったわけじゃない」
「じゃあなんで?」

最高が首を傾げ、訝しげな顔をする。
その可愛らしい仕草に危うく理性が崩れそうになるが、
何とか繋ぎ止めて秋人は拳をぎゅっと握りしめた。

「俺……っ。早くサイコーとエッチがしたかっ……ぐふっ」
「死ねっ!」

店内だということを考慮してか、いつもより軽めの拳をみぞおちに入れられた。
それでも十分痛みはあって、だがそんなのは最高を見れば大抵は忘れられる。
と思って顔を上げるが、そこにいるはずの最高がいない。
慌てて辺りを見回すと最高は既に外に出ていて、
秋人を置いて人波へと消える寸前だった。

「ちょっ……!待てよサイコー!」

店内から出て最高を追う。
分かっている。最高が少し先で秋人を待ってくれていることは。
だから急ぐ必要なんてないのに、置いていかれることが怖くて追いかけてしまう。
最高は自らこの恐怖を選ぼうとしていたのか。
自分の馬鹿な考えのせいで、最高にこんな辛い思いをさせるところだったなんて。
秋人は背を向けて立ち止まっている最高の手首を強くつかむと、
駅とは反対の方向に人波を掻き分けながら進んだ。
そんな秋人の行動に虚を突かれた最高が驚いて変な声を出す。

「ちょっ……?!シュージン?駅はあっち……」
「デートしような」

そう言って優しく微笑みかけると最高は湯気が出そうなくらいに顔を紅潮させた。
知っている。
最高がこの笑みに弱いことも、虚勢を張ることも。

「馬鹿……」
「ん。知ってる」

そして自分が馬鹿だということも。
一旦手を放して指を絡めるように繋ぎなおすと、強く握り返される。
今度は歩調を合わせて、二人でゆっくりと。
急ぎ足の人々とは隔離された世界にいる様な感覚。

いつもとは違う二人きりの空間が少しだけ照れくさくて、
最高は繋いだ手から伝わる秋人の熱に意識を傾けた。

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