Syusai-N-


□そんなの分からない
1ページ/2ページ

少し炭酸の抜けたコーラを一気に喉に流し込む。
夏場にこの冷たさと弱めの刺激は心地が良くて、
秋人は濡れた口元を腕で拭うと笑顔で最高にコーラを差し出した。

「ぷはっ、うめーっ!ほら、サイコーも」
「サンキュ。……って、あとちょっとしかねぇじゃん。飲んじゃっていいのか?」
「いいに決まってんじゃん。むしろ間接キスできて嬉しい」
「きもいわっ!」

そう言いつつも最高は開けっぱなしのコーラに口を付け、残りを一気に煽った。
その時さらされた最高の細い首。
外から差し込む太陽の強い陽射しとコーラの反射で、
最高の首までもが明るく照らされ光っているように見えてしまう。
ついついその光景に見とれていると、空になったペットボトルがゴミ箱に入った音と、
最高のため息が重なって秋人の視線は最高の首から彼の顔へと移った。

「……?どした?」
「いや……。なぁ、シュージンって俺のどこが好きなの?」
「は、はぁっ?!何だよ、いきなり!」

最高からの思わぬ質問に秋人は動揺を隠しきれず、
曲を聴こうとして持ち上げたヘッドホンを落としてしまった。
そんな秋人を見て最高も驚いたらしく、元々大きな目を更に見開いている。
お互いに好きと言うことはあっても、具体的にどこが、なんて話はしたことがない。
仮に「髪の毛が好きだ」と言われてもピンと来ないし、あまり嬉しくはない。
かといって「好き」だけじゃどこか物足りない気もしてくる。
秋人は何と答えていいものか分からずしばらく無言を通していた。
が、真剣に見つめてくる最高を無下には出来なくて、
秋人は乾いているであろう唇を一舐めして―意外に乾いていなかったが―口を開いた。

「俺は……。サイコーの性格が好きだ」
「へぇ」
「いつも強気だけど実はすごく寂しがり屋で甘えん坊。あ、それと足も好き」
「…………」
「男なのに細いし白いしさ。あと髪の毛もいいよな。寝癖がついてる時なんかもう最高」
「シュージン……、もういい」

(よしよし、サイコーが照れてる)

秋人はどんどん朱に染まっていく最高の顔を見て、最高が照れていると勘違いをした。
いや、実際に照れているのかもしれないが、その反面拳がわなわなと震えている。

「目もおっきいし、背ちっちぇーから自然と上目使いになるし。それで足見せられたら、俺それだけでイキそー」
「おい黙れ、クソメガネ」
「そしてその罵詈雑言は照れ隠し」
「ちょいちょいシュージンの妄想入ってないか?」
「いや事実」

怒りが呆れに変わった最高はゆっくりと立ち上がり、
この部屋に一つだけある鏡の前へ移動した。
そして自分の全身を映すと、思い切り顔をしかめた。

「サイコー?」

秋人は最高の側に寄り、後ろから抱き抱えるように最高の身体に腕を回した。

「頑固だし我が儘。足は病人みたいによわっちいし、髪はぼさぼさ。目も女みたい、それに」
「………?」

最高は一旦言葉を区切ると、首をひねって後ろにいる秋人を見た。
身長差のせいで、後ろを向くだけでは秋人の襟元しか視界に入らない。
従って今この状態で目線を合わせるためには、
後ろを向くと同時に顔を少し上に上げなければいけない。
だが顔を上げたまま静止というのは中々きついものがある。
そのため、大抵最高は顔をそのままに目だけを秋人に向けていた。
それは自然と秋人のいう上目使いというものになり、女の仕草を彷彿とさせてしまう。

「仕草も女みたいで気持ち悪い。……シュージン、俺のことけなしてねぇ?」
「何言ってんだよ、馬鹿!俺の恥を捨てた本心を、それこそけなすなよ!」
「だって……。俺、昔からコンプレックスだったんだよ……」
「は?何が?」

秋人は内心驚いていた。
最高は見た目なんて気にしないと思っていたから、まさかコンプレックスがあったなんて。
が、秋人から見たら最高にコンプレックスがあるようには思えない。
たとえあったとしても、秋人が最高を好きな気持ちに変わりはないが。
最高は秋人からも鏡からも視線を外すと、ぼそぼそと何かを呟きだした。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ