Syusai-N-


□甘いのと苦いのと、
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「高木くん! あの……これ、よかったらもらって?」
「私のも!」
「おー。サンキュー」

今日は朝から男子達が騒がしかった。
俺も男だから、靴箱を開ける時とか教室に入った瞬間とか、少し期待してみたけど女子が駆け寄って来る気配はなく、もう何度ため息をついたか分からない。

2月14日、バレンタインデー。
お菓子企業の策略にまんまと嵌まる若者は馬鹿みたいで笑える。俺もその一人だけれど。

が、ため息の原因はチョコがもらえないから、という訳ではなかった。

「シュージン。………それで何個目?」
「5」
「ふーん……」
「サイコーは?」
「あると思うか?」
「………わり」

ぎろりと睨むとシュージンは苦笑して短く謝った。
俺はというと、相変わらず女子は近寄って来ないし、挙げ句の果てには男子に「サイコーからチョコ欲しい」とまで言われる始末である。

「帰ろっか、サイコー」
「ん」

シュージンは受け取ったチョコを無造作に鞄の中へ突っ込むと、俺の背を押して教室を出た。

やっぱりチョコをもらえて嬉しいんだろうか。
俺は男だから当然だけどシュージンにチョコをあげる気はさらさらない。
だけど、もしあげたら彼は喜んでくれるかもしれない。
ここ最近、よく冗談で「チョコ待ってる」と言っていたし。

そんなことをぐるぐると女みたいに考えながら、ようやっと玄関にたどり着く。
シュージンが靴箱を開けるのをまさかな、と思いながら見つめていると、そのまさかを目にしてしまった。

「うわっ、あぶねっ」
「………よかったな。モテ男」

俺の視線の先には、漫画でしか見たことのないチョコの山があった。
好意を向けられた本人はそれはもう面倒くさそうにチョコを拾っては鞄に無理矢理突っ込んでいた。
仕方ないから手伝ってやると、メガネの奥で目を優しく細められた。
照れ臭くて目をそらすと、シュージンはいきなり俺の手首をつかんで立ち上がらせた。

「わっ、なんだよ」
「仕事場行こっか」
「チョコまだ落ちてるぞ」
「ほっとけ」

「薄情者、」と言いながらも俺の表情は嫌味なほどの笑みでいっぱいだった。


*


「はい。サイコー、チョコ好きだろ」
「シュージンがもらったんだから自分で食えよ」
「俺、甘いの嫌い。知ってるだろ」
「……しゃーねえな、」

チョコを受けとると、シュージンは嬉しそうに微笑んで俺の頭を撫でた。
チョコを開けて口に運ぶと、甘さと一緒に罪悪感が広がる。

明らかに手作りのチョコレート。
この子はどんなことを思いながらこれを作ったんだろう。
その思いを今、俺が無惨にもぶち壊しているわけだ。

俺は何だか居たたまれなくなって、チョコを一つつまんで無理矢理シュージンの口に押し入れた。
シュージンは眉をしかめ、仕方なくチョコを飲み込んで舌を出した。

「なんだよ、つーか甘っ、」
「一つくらい食っとけ。折角もらったんだから、」
「……サイコーちゃん優しー」
「るせ、」


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