Syusai-N-


□新婚ごっこ
1ページ/2ページ

「……ん?」

夜中の2時。「あんま遅くまでいたら駄目だからな」と言ってシュージンが出て行ったばかりだった。

「これ……、シュージンの筆箱……?」

シュージンがいなくなった机を見遣ると、そこにはいつもシュージンが持ち歩いている筆箱が置き去りにされていた。

「忘れたのか……。まあ明日も来るだろうし、ほっとこ」

俺は筆箱を置き、彼の忠告を破って仕事場に泊まることにした。

(明日は学校休みだし。シュージンだってどうせ家で徹夜してんだろ)

そう言い聞かせて再び机に向き直り、原稿の下書きを進めようとした。その時。

「サイコー」
「………シュージン?」
「サイコー、やっぱり帰ってねえのか。あれだけ注意したのに……」
「いや、なんでいんの?」
「サイコーがちゃんと帰ってるか確かめに来た。ったく、少しは俺の気持ち察してくれよ」
「わ、悪かったって。あ、そういえば、シュージン筆箱忘れてたぞ。ほら、そこに」

どうやら初めから帰るつもりはなかったらしい。
俺の目の前で怒りに顔を歪め始めたシュージンに驚きを隠せない。
彼の気をそらすために、慌てて筆箱を指差すと、つられて秋人が振り返り、「ああ、あれか」と呟いて興味無さげに目をそらした。

「………? 忘れたんだよな?」
「置いてったんだよ」
「なんで?」

どうやらわざと忘れていったらしい。
その理由が分からなくて首をかしげると、秋人が満面の笑みで最高の頭を撫でて言った。

「俺の私物はここに置いておきたいんだよ。なんか同棲してるみたいじゃん?」
「………はあ?」
「だから最高も私物置いてけよな」
「置いてかねえよ!」

あほらしい、と呟いて立ち上がると、秋人が優しい笑みを浮かべて最高を抱き締めた。

いつもよりもずっと優しい抱擁。
そういえば、ここのところずっと徹夜続きだった。
このまま秋人の腕の中で眠ってしまいたい。

けれどここで寝てしまうと睡眠不足なのが秋人に見破られてしまうかもしれない。いや、もしかしたらそれを狙ってこんなことをしているのだろうか。

そんなことを考えながらうとうとと微睡んでいると、秋人が急に腕を解いて最高の制服のシャツを脱がし始めた。

「………なッ、?!」
「サイコー、ずっと制服だったろ。着替えよ」
「着替えるって、服は、」
「俺の持ってきたから」
「……やけに準備いいな」

じと、と訝る視線を送ると、眼鏡越しに目が合って思わずたじろいだ。

結局、最高が秋人の注意を聞かないということはお見通しだったということだ。
最高は目を伏せてシャツのボタンを外す秋人の手首をつかんだ。

「……シュージンは、俺になんでも言うこと聞いてほしい?」
「は? なんだよ急に」
「それとも、俺がすることならなんでも許してくれるの?」
「………どうした、サイコー」

さっきの最高と同じように秋人が眉を寄せる。
ぐい、と秋人の手を退けて正面から秋人を見つめた。

「サイコーがすることを俺がどうこう言う権利はないよ」
「………そう」

かかった、と最高は微笑んだ。

「じゃあ、エッチもなしな」
「え? なんで、」
「俺がすることをどうこう言う権利はないんだろ?」
「うわ、最悪、」

楽しそうに笑うサイコーにキスをすると、サイコーは照れたように笑って俺の手を引っ張った。

「寝よ。な?」
「…………はあ。やっぱサイコーには敵わねえわ」

シュージンはそう言って笑うと、俺の手を握り返して仮眠室へ向かった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ