Syusai-A-


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喫茶店開店。
今さら嫌だと言っても仕方がないのは百も承知だ。
だが、今回に関してだけは言わせてもらおう。


「メイドなんて嫌だー!」


「うぉ、どうしたサイコーちゃん」
「シュージンきもいんだよ!離れろ!」
「なっ、そりゃきもいだろうけど面と向かって言われるとまた……」


大体、男子女装喫茶なんて誰が考えたのだ。
こんな気持ち悪いメイド達に囲まれて、
優雅にお茶が出来る人など果たしているのだろうか。
まあたかが学校の文化祭、優雅もくそもないが。



「サイコーは似合ってるから大丈夫だって。ほら、客来たぞ働けメイド」

「大丈夫って何がだよっ!つかお前もメイドだろ!」


その後もしばらく言い争っていたが、厨房にいる女子から一喝され、二人は渋々接客へと向かった。


(思ったよりも客来てるな……)


喫茶店は最高の予想に反して、わりと繁盛していた。
せっせっと働く男子達は、かなりメイドになりきっている様子だった。
秋人と最高は並んでその様をぼけっ、と見ていたが、
気付いたメイド男子一人が大股で近付いてきたかと思うと

「何ぼけっと突っ立ってんだよ!ほら、接客!さっき練習したろ!あ、お帰りなさいませ〜」

目で続きをやれと促す。
その勢いに気圧された二人は意を決して客へと向き直った。



「お、お帰りなさいませ、ご主人様……」

秋人が顔をひくつかせながら定型文を口にする。

(ひぇ〜、シュージンまじで言ってら)

「サイコーも言えよ」


秋人の潔さに感心していると、小声で諭されて睨まれる。
もう逃げ場はない。
そう悟った最高は不満を顔中に表したまま頭を下げた。



「お帰りなさいませ、ご主人様」


なんだ、思ってたよりも抵抗ない。
そうか、棒読みをすればよかったのか。
これならなんとか文化祭を乗りきれ――



「アホかっ!」
「痛っ!!」



急に頭を殴られ、痛みに顔を歪めながら顔を上げる。
そこには、客として来たらしい見吉と亜豆が立っていた。
どうやら見吉に殴られたらしい。

(よりによって、何で亜豆……!)

この姿を見られた羞恥で顔が赤くなる。
何だか物凄く恥ずかしくなってきて、
最高は精一杯短いスカートの裾をのばした。
そんな様子を、横で秋人が凝視していることにも気付かずに。


「え、えっと、何で亜豆さんが……?」
「私は来ちゃいけないの?」
「夢が叶うまでは会わない約束……。しかも僕、こんな格好だし……」
「真城くん、似合ってるよ。可愛いし、羨ましいな」
「う……あまり嬉しくない」


ぎこちないが幸せそうに笑う二人を見て、秋人は少しむっとした。
最高のあんな笑顔は見たことがない。
あの笑顔を引き出しているのは秋人ではなく亜豆で、その事実が秋人の独占欲に響いてく。


「ね、美保と真城、なんか良い感じじゃない?」
「そうか?なんかぎこちねー」
「話せてるだけ進歩でしょ!」
「進歩ねぇ…」


こっそり耳打ちしてきた見吉への返事が思わず杜撰になってしまう。
進歩なんて言われても、苛々するだけで見吉のようには喜べない。

「つーか、最高が女装してるせいで、ただの仲良し女子にしか見えないんだけど」
「い、言われてみると……確かに……」


亜豆もかなりの美人だが、女装した最高も負けてはいない。
店から出て行く客達が、感心したように二人を見つめる。
特に最高の場合は女装なので、それが更に客達の好奇心を煽るようだった。


(面白くねー)


皆、最高の可愛さなんてわからなかったらいいのに。
最高の怒った顔とか、照れた顔とか、泣いた顔とか、
全ては秋人のためにつくられた表情で、
他の人になんか見られなかったらいいのに。

なーんてことを、メイド姿で考えていても格好がつかない。
秋人は後で女子に憤慨されるだろうとわかっていながら、着替え室へと向かった。
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