Syusai-A-


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「シュージン……」

気が付いたら窓の外は真っ暗になっていて、カーテンを閉めようと身を乗り出し、そのまま何気なく下を見遣る。
そこの電柱の隣で毎朝俺のことを待ってくれるシュージン。
会話なんて、無いに等しいけれど。

名残惜しむように誰もいないその風景を目に焼き付けてカーテンを閉める。
再びベッドに寝転ぶと、何処からか俺の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
いや、これ、気のせいじゃない。

勢いよく身体を起こしてカーテンを開ける。
そこには、近所迷惑だというのに大声で俺の名前を呼ぶシュージンが立っていた。

「なんで……」
「サイコー、ちゃんと話しよう! 頼むから……ッ!」
「………っ、」

ばたばたと足音をたてて下に降りる。
ほとんど体当たりするようにドアを開けると、息を切らしたシュージンが俺を見て目を見開いた。
数秒無言で見つめ合う。こんな風に目を合わせるのはすごく久しぶりな気がする。

何分も経って、やっとシュージンが歩き出した。
ゆっくりと俺の方に歩み寄って、窺うように俺の顔を覗き込む。

「シュージン……」

やばい、声が掠れてる。
ついに目前まで来たシュージンが、泣きそうな顔をして俺を抱き締めた。

「!」
「サイコー……ッ、頼むから、また前みたいにキスしよう。俺、サイコーじゃないと駄目みたいだ……、はは……」
「シュージン……、」

駄目だ、泣きそう。
シュージンも同じこと考えてたのかな。
だったらとんだ勘違いだ。見吉以上の勘違い。

シュージンの背中に腕を回し、懐かしい感覚に俺は目を閉じた。
あったかい。堪えきれなくてついに涙が溢れ出す。
今日泣くのはこれで二回目だけれど、二つの涙にどれだけの差があることだろう。
嬉し泣きなんてあるのかと思っていたけれど。

「シュージン……、俺、寂しかった。また俺のこと見てよ。身体じゃなくて、ちゃんと口で言えよ……ッ!」
「サイコー……」

シュージンが俺の顔を両手で包み込む。
涙でぼやけてシュージンの顔がよく見えないけど、ちゃんと体温が伝わっている。だから。

「シュージン。好き。大好き……ッ」
「俺もだよ。好きだ、サイコー……」

低い声で、でも優しい声音でシュージンは囁いた。
俺はシュージンの胸に顔を押し付けて、嗚咽を洩らしながら泣いた。
頭を宥める様にぽんぽんと叩くシュージンの手が相変わらず優しくと、涙が止まらなかった。

「仕事場戻ろう」
「ん……」

暗い夜道を手を繋いで歩く。
涙が止まらなくて「いつまで泣いてんだよ」と苦笑しながら言われたけれど、そういうシュージンだって涙が滲んでいた。

仕事場に着いて、シュージンが合鍵でドアを開ける。
俺達のもう一つの帰る場所。
中に入るとすぐさまシュージンが俺を押し倒した。

「ちょ……、はや……」
「…………いい? サイコー、」
「だから聞くなよ……」

そう言うと、ちゅっと音をたてて目元にキスが降りてきた。
そのまま顔中にキスをされて、その唇の温かさに止まったと思っていた涙がまた頬を伝う。

シュージンが戻ってきた。
シュージンと目が合う度にぞくりと背筋を走る甘い疼き。
俺の気持ちに気付いていなかったのなら、それは許しがたいことだけれど、耳元で囁かれる言葉につい彼を許してしまう。

一人になってやっと気付いたよ。
シュージンがいないと俺は何にも出来ない。お前も同じだろ。

シュージンの顔を包み込むと、目を細めて吐息で名前を囁かれる。
メガネを抜き取って床に投げ捨てると、それを合図に制服のシャツを脱がされ始めた。
肌が露になると冷気が俺を包み込む。
少し寒くて身震いをしたら、温めるかのように抱き締められた。


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