HP
□ベールの彼方
1ページ/1ページ
まったく君は、本当に自分勝手で、意地悪なやつだなぁ。
あまりにも沢山の大きなものを与えるだけ与えて、人には何のお返しもお礼もさせないままで
また、あの子を、僕を置き去りにするなんて。
君の体が、ベールを突き抜け沈んでいく一瞬。まるで永遠の時が流れたかのようだった。
「シリウス!シリウス!」
取り乱すあの子に、君の死を説明するのはなんて酷なことだろう。
「連れ戻して。助けて。向こう側に行っただけじゃないか!」
そうだ、君はただ、あのベールの向こうに、消えてしまった。それだけなんだ。けれど、
「もう、遅いんだ。ハリー」
君を一度失いかけた、君を憎みながら過ごさなければならなかった日々。かつてのそれらともまるで比べ物にならない程辛く、苦しい。
「いまならまだ届くよ」
激しくもがくあの子の腕を、離さなかったのは、自分がただ縋りたかっただけだ。あの子にではない。自分に言い聞かせるように声を絞りだす。
「もう、どうすることもできないんだ。ハリー……」
声は震えてしまわなかっただろうか。涙は、隠せているだろうか。
「あいつは、行ってしまった」
ベールの彼方へ。
もう、帰ってはこない。
絶対に万が一にでもゴーストになって戻って来たりはしない。
だってあのジェームスがそうだったのだから。君はゴーストなんか退屈なだけだと笑うだろう。
だからこそ、今は耐えよう。
あの子の前では涙をこぼさないように。
こんな時になって思い知る。
君には一度だって告げたことはなかったけれど、僕は確かに君を愛していた。
君が、僕を愛してくれたように。
-end-