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□ベールの彼方
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まったく君は、本当に自分勝手で、意地悪なやつだなぁ。


あまりにも沢山の大きなものを与えるだけ与えて、人には何のお返しもお礼もさせないままで


また、あの子を、僕を置き去りにするなんて。


君の体が、ベールを突き抜け沈んでいく一瞬。まるで永遠の時が流れたかのようだった。




「シリウス!シリウス!」


取り乱すあの子に、君の死を説明するのはなんて酷なことだろう。


「連れ戻して。助けて。向こう側に行っただけじゃないか!」


そうだ、君はただ、あのベールの向こうに、消えてしまった。それだけなんだ。けれど、


「もう、遅いんだ。ハリー」


君を一度失いかけた、君を憎みながら過ごさなければならなかった日々。かつてのそれらともまるで比べ物にならない程辛く、苦しい。


「いまならまだ届くよ」


激しくもがくあの子の腕を、離さなかったのは、自分がただ縋りたかっただけだ。あの子にではない。自分に言い聞かせるように声を絞りだす。


「もう、どうすることもできないんだ。ハリー……」


声は震えてしまわなかっただろうか。涙は、隠せているだろうか。

「あいつは、行ってしまった」




ベールの彼方へ。




もう、帰ってはこない。
絶対に万が一にでもゴーストになって戻って来たりはしない。
だってあのジェームスがそうだったのだから。君はゴーストなんか退屈なだけだと笑うだろう。


だからこそ、今は耐えよう。
あの子の前では涙をこぼさないように。


こんな時になって思い知る。
君には一度だって告げたことはなかったけれど、僕は確かに君を愛していた。


君が、僕を愛してくれたように。
-end-

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