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□君の理由
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池の淵に腰掛け鯉を見ていた。ふと感じた馴染み深い気配に顔をあげる。



「三郎」
「やぁ、雷蔵」



同じ顔が2つ、池の水面に浮かんだ。



雷蔵は私の隣に腰掛けて水面を覗きこむ。



「相変わらず、僕だなぁ」


穏やかに微笑む雷蔵。2つの顔は全く違った表情を浮かべた。



「思い出せたの?」
「あぁ」



私が顔を鯉に変えおどけてみせると雷蔵は目尻を下げて苦笑した。



「気持ち悪い」
「力作だ」



少し笑ったあと、顔を雷蔵に戻して私は口を開く。



「今日、乱太郎、きり丸しんべえに、何故君の顔に化けるのかと聞かれたよ」
「へぇ」



雷蔵は興味深げに私を見た。



「知りたい?」
「うん」



は組の3人組に話した通りに訳を話すと雷蔵は不満そうな顔をした。



「それ、前に聞いた気がするけど、本当かなぁ」
「私は雷蔵には嘘は吐かないよ」
「…うーん」



腕をくんで宙を睨んだ雷蔵がぱっと顔を上げる。



「じゃあ一つ聞いてもいいかな」
「いいよ」
「どうして、僕だったのか」
「…雷蔵、それは今言ったじゃないか。学級委員長委員会の…」
「うん、だから」


どうして、他の誰か、例えば八左とかじゃなく雷蔵だったのか




「それは、私にもわからないよ」
「えー」
「ただなんとなく雷蔵の顔が浮かんだんだ」
「…ふーん」



雷蔵は少し残念そうに相槌を打ってからふっと笑った。



「でも、いいや」
「え?」
「僕だった理由がなんだとかどうでもいいかなって」「何だせっかく話したのに」
「ああそういうことじゃなくて」



クスクスと笑って雷蔵は池の水面を覗いた。



「嬉しいんだよ、僕は」
「え」

「お前が無意識にでも、僕を選んでくれたことがさ」


水面に浮かぶ2つの顔は同じ顔。ただ、



「僕を選んでくれて、ありがとう。三郎」



一つの顔は綺麗な笑顔、一つの顔は泣き出しそうに歪んでた。




(君だった理由
それはとても単純なこと




ただ、君のその笑顔が焼き付いて離れなかった


たったそれだけの理由)




「あ、でもあんまり僕の顔で悪戯するなよ?」



叱るようにいって私の頭を撫でる雷蔵。



「もう、大丈夫か?」
「…あぁ」



優しい声に笑って顔を上げる。



「ありがとう、雷蔵」








-end-

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