外伝集

□「このせかいはもっと」
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私には大嫌いな男がいる。




「このせかいはもっと」





「健ちゃん、今日遊びに行こうよー」

「悪ぃな、今日先約あるんだよね」

「えー、じゃあ健ちゃん、それ断って、俺らとカラオケ行こうぜ」

「いやいや、それ断った意味無いだろ?」


廊下のど真ん中。
本校舎で職員室に一番近いその廊下で、私こと二条橋斎は道を塞いでいるその群れに苛立ちを感じていた。


「…川端先生」

「ん?お、斎ちゃーん、どうしたの?俺に何か用――」
「往来の邪魔です。避けて頂けますか」


私の台詞に周りの空気が一瞬凍る。なんであれ、私は間違ったことは言っていないのだ。凍ろうが何だろうが関係無い。


「斎ちゃんって、俺のこと嫌いか?」

「えぇ、大嫌いですので、とっとと避けて頂けますか?」

「先生に対して口の利き方もなってない。悪い子だなぁ」

「御託はいいです。はい、邪魔」


愛用のトンファーで周りの生徒を威嚇して道を開けさせる。スタスタと歩き去って行く時、後ろから声が聞こえた。


「こっわー…アレでしょ?“女虎の斎”って」

「学年一位の秀才で、先生方からも一目置かれてるけど、えらいツンケンしてて誰も近寄れない孤高の女虎だっけ?」

「美人なのに勿体ないよな、アレで愛想良かったら最高なのに」


…余計なお世話だ。
そもそも彼らに好かれたい訳じゃない。かと言って嫌われる気も無い。 只、自分らしく生きている結果なのだ。

ツカツカと玄関に向かって歩く。今日は大事な約束があるから、早く帰ろうと思っていたのにあの軍団のせいで、時間を喰ってしまった。


「あ、斎ちゃん」


校門を出ると、遅いからか迎えに来たらしい彼女が立っていた。


「絵里!」


二条橋絵里。私の従姉妹だ。
時々こうやって会って遊ぶことがある。


「珍しいね、斎ちゃんが遅れるなんて。遅れる時はいつも連絡してくるのに」

「…遅れることも想定しない場所で引っ掛かったのよ」

「ふふ、“また”川端先生?」

「そう、“また”川端」


彼女は…絵里には私の愚痴をよく聞いて貰っている。その度に的確にアドバイスをくれたりするから有り難い。
故に、私が大嫌いで苦手過ぎる川端健のこともしょっちゅう話している。


「斎ちゃんさ、」

「んー?」


タピオカを飲みながら街中をぶらぶら歩く。所持金が今日はちょっと少ないから多分ウィンドウショッピングだろう。


「“嫌よ嫌よも好きのうち”って知ってる?」

「知ってるけど…だから?」

「前に斎ちゃんに川端先生の悪いところあげて、って言ったらいっぱい出てきたよね?…もう分かる?」

「分からん」

「そう。…だから、まぁ、嫌いだなんだって言ってても、斎ちゃんはなんだかんだで、川端先生が好きなんだよ」

「……は?」


絵里の言ってる言葉が私には理解出来ない。


「少し素直になってみたら?」

「ずぅぇったい、嫌ッ!」


断固拒否!!と絵里に続けて言うと、かなり笑われた。


何故、私が川端健を好きだと思わなきゃならんのだ。











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