*Another-Future*

□小さくたって女の子
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郁は先月から堂上の家で生活を共にしている。
職場でお世話になっている笠原部長のお嬢様だ。
仕事の都合で日本を離れなくてはならなくなった笠原部長は、奥さんと郁を連れて行くつもりでいたのだが、当の本人がそれを断固として嫌がったのである。



『やだやだやだぁー!!!あさこちゃんとはなれたくないぃーっ!!!』



わんわん泣いて、それはもう朝から晩まで泣き続けるものだから流石に笠原部長も可哀想に思った訳だ。
しかしまだ小学生と中学生の兄達と共に日本に残すには郁はまだ幼すぎて、どうしようもない心配が沸き起こる。
そこで、堂上に白羽の矢が立ったのである。



『すまない、堂上君…半月で戻れるだろうから、それまで郁を頼みます』

『はい、お嬢さんは私に任せて下さい』



そう言って笠原部長が日本を発ったのは一ヵ月前のこと。
半月で帰ると言っていた彼だったが、現地で思わぬトラブルが発生してしまい、未だ海の向こうで足止めを食らっているのだ。
きっと心配で堪らないで居るのだろう。
しかしそんな心配も余所に、郁は相変わらずのご様子だった。



『初めまして、郁ちゃん。俺は篤って言います。短い間、よろしくね』

『あつし…おにぃちゃん?』

『そうだよ、よろしく』

『うんっ!よろしくね!』



小さく愛らしい手で堂上と握手をしたときに見せた笑顔は、今もまだ健在のままだ。
そんな郁に堂上は安堵する。
正直子供は苦手だから、泣き喚かれたらどうしようかとひやひやしていた。
その心配も最早皆無だったが。



「郁、支度出来たか?」

「あたりまえじゃん!」



スーツに腕を通しながらリビングに入ると、黄色い帽子に水色の園服を着た郁がソファにちょこんと座っていた。
膝にはお気に入りの絵本が乗っかっている。



「あつしおにぃちゃんがおそいから、いくこのえほんもうよみおわっちゃったよ」

「そうかそうか、悪かったな」



そう言って郁の頭をよしよしと撫でていた堂上は、郁の唇から少し離れた場所に付着したままのチョコに気がついた。
大方朝ご飯にトーストに塗っていたチョコだろう。




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