*Another-Future*
□捕まったのは奴だけじゃなかったらしい
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「…お前、そうしてると26には見えないな。ある意味詐欺だ」
「うっさい手塚!変態!」
手塚としてはただの感想だったのだろう。しかし今の郁には全て怒りを増長させる要因にしかなり得なかった。
郁が渡された制服は、都内でも可愛いと評判の学校のもので、丈が短めの深緑のブレザーに、緑がモチーフのチェックのプリーツスカートと、中には冬場らしく白いカーディガンをあわせた如何にも今時の女子高生らしいものだった。
スカートを短めにして黒いタイツを穿けば、美脚の女子高生の出来上がりである。
いつでもタイツ魔を撃退できるように鞄にはノート数冊とペンケース、数千円が入った財布だけを入れて、文庫コーナーをまわる。
適当に本を手に取って立ち読みをする振りをして、タイツ魔が現れるのを待つのだ。
敵を油断させる為に、音楽を聴いていると見せかけるために耳に装着したイヤホンからは、監視をしている図書隊からの連絡が入っている。
文庫コーナーから見える少し離れたところに堂上と小牧、向かいの棚に手塚が配備されていて、いつでも動けるように待機していた。
信頼する仲間が近くにいる。それは凄く心強い。
だけどやっぱり、痴漢が出る度に囮として差し出されるのは女としてどうしても嫌なのだ。
まして、今は大好きな人と付き合っているというのに。
『笠原、気をつけろ。お前の近くにタイツ魔らしい男がうろついている』
突然耳に入った彼の声に、郁は一気に意識を集中した。
そうだ、これは仕事なんだ。嫌だとか言ってる場合じゃない――。
郁は手にしていた文庫本の文字を上から下にただ流し読みをした。意識は完全に、自分の背後にいる男の気配に向いている。
一枚、ページをめくった。
「……!」
そうして男は動いた。
太ももに触れた指の感触に、全身が嫌悪で栗毛立つ。
しかしここで動いたら駄目だ。もっと、確かな証拠を掴まないと――。
男は郁が動かないのを良いことに、少しずつ手の動きを大胆にしていく。
そして。
「…っ、いい加減にしなさいよ、あんたっ!!」
鞄を放り投げ、お尻に手を伸ばした男の手を捻りあげた。
途端に男は痛みに顔を歪め、逃れようと抵抗する。
もう限界だった。
なんで彼氏以外の男に触られなきゃなんないのよ――!
気付いたときには、男は床でのびていて、駆け付けた堂上に腕を引っ張られ、業務部に空けてもらった部屋に連れ込まれた。
「教官…?どうしたんですか、そんなに…」
「良いから、コレ穿け」
そうして堂上が差し出したのは郁のジャージの下で、どうしてこれを?と郁が尋ねると
「さっき柴咲が俺に寄越した。お前どうせタイツのことなんか気にしないで犯人捕まえようとするからってな」
「?、はあ…」
未だ合点のいかない郁に堂上はため息を吐いて吐き出した。
「タイツ、伝線してる」
「…っえぇーー!??」
そこで漸く郁は自分の状態を確認した。
穿いていた黒いタイツは見事に縦に長く伝線していて、いつしか柴咲がそれで儲れると言っていたことを思い出した。
急いでジャージを穿いて、けれど堂上に見られてしまった恥ずかしさに顔を真っ赤にして俯くことしかできない。
(――あぁもうあたしの馬鹿!)
後悔しても後の祭。けれど後悔せずにはいられないでいると、堂上がジャージの上から郁の太ももに指を這わせてきた。
途端、郁の身体がビクンと跳ね上がる。
「やっ、なにするんですか!」
「どこ…触られた?」
「え…?」
低い堂上の声は怒っているようにも聞こえて、郁はビクリと身体を揺らす。
「仕事って分かってても…割り切れないことだってある。自分の女が他の男に触られるのを見るなんて、俺には耐えられない…」
真剣な顔でのぞき込んできた堂上の唇は、そのまま郁の唇を塞いだ。
くぐもった声と、堂上が撫でるジャージの衣擦れの音だけが、静かな室内に満ちて行く。
郁のタイツ姿は、犯人確保に多大な貢献をした。
しかし少なからず、ここにもう一人郁に囚われて、仕事中にも関わらず理性を飛ばしてしまっている人もいるようで――。
捕まったのは奴だけじゃなかったらしい
後日、タイツ魔を撃退した郁の伝線黒タイツ姿をいつの間にか撮影していた柴咲から、写真を全て奪い返さなくてはいけなくなるのは、もう少し先のこと。
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貰い物。
本編にもありそうなー・・・。