紅の雪・書・
□・出雲・
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「おぉ!紅狐(くれないぎつね)殿ではないか!!元気そうじゃのぅ」
「天狗じゃねーか。・・・何かあったのか?」
紅い毛並みの耳と尻尾を持った、銀髪に紅瞳の美青年は、天狗に話しかける。
この美青年こそが、齢五千年の大妖・・・神狐『紅狐』なのだ。
紅狐が"何かあった"ということを察するのに時間はいらなかった。
紅狐の周りには、彼と張り合えるくらいに長く生きている大妖たちが集まっていたからだ。
「比較的に軽い話と重い話、どちらから話す方がよいかの?」
「そりゃあ、軽い話からいきたいぜ?」
紅狐の口調はいつもと変わらないが、紅玉のような煌めきをもつ瞳は細められ、彼が真剣に話を聞こうとしているのが分かる。
長く生きている分だけ、付き合いも長いのだ。
「雪女の雪雀(ゆすずめ)が死んだ。...弥生の頃に」
答えたのは、真っ白の光沢のある髪に、翡翠色の瞳をもった犬神、狗來(こうき)である。
「男が死んだんだな」
「あぁ。そして後を追った」
雪雀も齢千年を超える大妖だ。その彼女が死ぬというのも一大事なのだが・・・これよりも重いとは、一体何事だろうか?
「重い話にいこうか」
紅狐がそう、口を開く。
すると狗來が、ためらいつつも・・・答えた。
「雪雀の妖力は、冥界には大きすぎたらしい」
「まぁ、そりゃそうだろうな」
「その妖力が全て・・・赤子に移った」
「・・・なっ・・・!?」
「それも一人だ」
あの大きな妖力を人が有していれば、妖力にひかれてきた妖共の、餌食となる。
「幸いにも、両親が陰陽師の名家の生まれだ。そう簡単には食われないだろう。・・・ただ、」
―――"いつまでもつか、分からない"
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