*Another-Future*
□もしも貴方があの時に、あの人に出会っていなかったのなら
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た、た、た。
規則正しいこの足音は、愛しいあの人の帰りを告げるもの。
あたしは夢中で敷居を跨ぎ、玄関へ降りる。
ガラ・・・
開いた扉の向こう側に、不敵に笑いながら立つ、彼に思わず飛びついた。
「お帰り!ギン」
「ただいま、乱菊」
ギンは、突然飛び出してきたあたしに驚きながらも、しっかりと受け止めてくれた。
左手には、行きには持っていなかったはずの風呂敷があった。
なんだろ。
するとギンは、あたしの不思議そうな視線に気付き、風呂敷をあたしの目の前に下げてみせた。
見た目は軽そう。
でもかさばってる。
・・・?
ギンの手から風呂敷を受け取り、恐る恐る開いてみる。
・・・着物だ。
それも、とてもいい生地で高そう。
あたしのオレンジっぽい髪に似合うようにか、その着物は赤っぽくて。
でも黒い影絵のような蝶々が大人っぽい。
「綺麗・・・」
思わずつぶやく。
「君に似合うかな、思うて買うてきたんよ」
不意に上から声がかかる。
「長い間、留守にしてごめんなぁ」
ギンの優しい声に、涙があふれる。
「一緒に、出かけよか」
「うんっ・・・」
こぼれる涙を隠すように、あたしは勢いよく立ち上がって用意にかかった。
そんなこと、ギンはお見通しだろうけど。