*Another-Future*
□泣きたくなるほどの
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――ハウル
声がする
僕の心を捕えて離さない、灰色ねずみのお嬢さん
――ハウル
赤ちゃんはすっかり大きくなったから
あんたのお腹、重そうだよソフィー
――ハウル
聞こえてる
ちゃんと、届いてる
ちゃんと…分かってるよ…
「ハウル?」
霧が晴れたように、まどろむ意識は一気に覚醒しました。
ぱちくりと瞬いて少々間抜けな顔をするハウルは、目の前にあるソフィーの顔と訝しむ声に、自分が今まで眠っていた事実に至ります。
「あ、あぁ…ごめんソフィー、寝ちゃってたよ」
「まったくもう、こんなところで寝たら風邪引くわよ」
呆れた顔でため息を吐く目の前の奥様。
ハウルはどうしようもなく哀しくなりました。
「、どうしたのよ、」
ソフィーが驚いた声をあげました。
それもその筈、ハウルが彼女のすっかり大きくなったお腹に頬を擦り寄せたから。
瞳を閉じて、その温もりの中に聞こえる微かな胎動とソフィーの息遣い。
その全てが愛しくてたまりません。
――とくん、とくん
(――ここに、在る…)
するとハウルは、今度はソフィーを自分の膝の上に座らせるとその華奢な肩に顔を埋めました。
まるで小さな子どもが母親から離れたくないときにするような仕草。
「…いくのね、」
「…うん」
「危険なのね?」
「……うん」
そう呟いて、ハウルの指がソフィーの背中を掻き抱きます。
その指に籠る力とは裏腹に、その指は震えていました。
(…死にたくない、この子を、ソフィーを遺してなんか、いけない…)
王室付き魔法使いの称号を得たときから、国王の命は絶対で。
例え死ぬことになるような任務でも、全うしなければ反逆罪とみなされます。
そうなったときの末路は、家族には味合わせたくない――。
ただその一心で任命を仕ったハウルでしたが、今、我が子の存在、家族の存在がその覚悟を揺るがしていて。
残酷な運命。呪わずにはいられなくて。
と、そこで今までじっとしていたソフィーが微かに身動ぎました。
ハウルの顔を両手で包み込み真っ直ぐに合わせたソフィーの瞳はとても温かく、けれど熱く燃え盛っていました。
「…ソ、フィー?」
「ハウル、あんたは戻ってくるわ」
「へ?」
「あんたは戻って来なくてはならない、生まれたこの子を抱き締めてあげられるのは父親のあんただけなの」
「ソフィー…」
「そうして、戻ってきたら、またあたしたちと幸せに暮らしましょう?」
大丈夫、出来るから
最後におでこに口付けを落としたソフィーは、とても優しい笑顔を浮かべていました。
「さあ、行きましょう?夕飯の準備をしなくちゃ」
手を差し出してハウルを待つソフィーにハウルは小さく頷きました。
(――僕はここに、戻ってくるんだ)
end
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