*Another-Future*
□甘くない夕飯
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「………なに、これ」
ハイラグリオンから馬車に揺られること半時間。
鬱蒼と生茂る森の奥深くにその研究所はあった。
フィリエルが第三の女王候補としての火の鳥の羽を無事クリアし、次期女王として王宮での生活が本格的になりだしたのが春先のこと。
勿論ルーンも一の騎士として迎えられた訳だが、彼には研究者としての一面もあるわけで。
『今更彼に研究を捨てろだなんて、そんな酷なことあたしは言えないわ』
フィリエルの発言が功を奏したのかは定かではないが、女王は王宮の近くに研究所を建てることを了承して下さった。
彼女曰く、そうしなかったときにフィリエルがどう出るかは目に見えて解っていたからなのだそうだが。
その様な経緯があって、ルーンは今研究所と王宮とを行き来する生活を送っている。
どういう訳かフィリエルも同じ生活パターンだが、それについては何も不満はないし、むしろ彼としては大いに喜ばしいことなので敢えて口を挟むこともあるまい。
内心フィリエルとの細やかな二人暮らしに浮ついていたのかもしれない。
一ヶ月余りが過ぎた頃の夕飯の時間、つまりは今、ルーンは額に脂汗を浮かべながら目の前に出されたものについてフィリエルに尋ねた。
「なに…って、夕食だけど」
心なしか、フィリエルの口調が冷たく感じる。
ルーンは信じられない、と言った顔付きでフィリエルが作った今晩の食事を凝視した。
熱い湯気をふわふわと漂わせ、その白い空気に乗ってルーンの鼻孔を擽る香り。
くつくつと陶器製の鍋の中で出来立ての具材がそれぞれの存在を主張していて、普段なら食欲を誘うようなものなのだが、今の彼からそれらは完全に消え去ってしまっていて。
「………これ、なに…?」
もう一度、今度は夕食の名前について問い直した。
「カグウェル風キムチ鍋」
さっきより少し柔らかい口調で、でも決して瞳は笑っていない。
フィリエルを怒らせたら相当だと言うことは、自分が一番知っていた筈なのに、なんたる誤算。
「…これを、食べろって?」
「美味しそうでしょう?ずっと前にユーシスから聞いて一度作ってみたいと思っていたの。昨日はルーンも帰りが遅かったから、これで疲れをとってもらおうと思って」
ユーシス…次に逢ったら見てろよあいつ。
心の中で舌打ちをしてみるけれど、現状の打破に至る訳もなく。
「…悪かったよ、フィリエル。昨日は本当に、僕が悪かった」
「だから良いって言ったじゃない。別にあなたがレアンドラと一緒にいて、あたしの約束を破ったなんて、そんなこと気にしてないわよ」
―――いや気にしまくりだろそれ、
頭で冷静にツッコミをいれるけれど、目の前に広がる鍋を見るとそんな勢いも萎んでしまう。
「さ、早く食べないと冷めちゃうわよ?それともあたしの料理は不味くて食べれないかしら。レアンドラに作って貰った方が良かったかしらね」
可愛らしく小首を傾げてみせるフィリエルを、初めて悪魔だとルーンは思った。
「フィリエル…っ、僕は本当に…!」
「さぁさぁさぁさぁ、食べなさいルー・ルツキン!」
「ま…っ、フィリ…っ!!!」
その夜、研究所からは若い男の拷問を受けているかのような叫び声が聞こえたとかそうでないとか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
貰い物。
こうゆうフィリエルも、いいと思うww
ルーンって辛いもの、苦手だよね*