*Another-Future*
□捕まったのは奴だけじゃなかったらしい
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玄田曰く、説明するとこうである。
どうやら最近、武蔵野近辺の図書館でタイツを穿いた女性限定に、痴漢被害が出ているらしい。
武蔵野以外のめぼしい図書館全てにその男――タイツ魔は現れている。
タイツ魔が出没した図書館側は警備を強化したが、それから痴漢被害は報告されず。そうして都内に転々と姿を現したタイツ魔が次に現れるだろうと予想されたのが、武蔵野第一図書館である。
勿論図書館側とて、被害が出るのを指を咥えて待っていられるほど上品ではない。(何せ隊長はあの玄田である)
そこで、囮として白羽の矢が立ってのが郁である。
「ま、あんた脚には定評あるからねー。タイツ魔にとっちゃ格好の餌でしょうよ」
「妙齢の女捕まえて餌とかいうな!」
柴咲のなんとも実も蓋ない感想に反論して、郁はブレザーに袖を通した。
「…で、囮なのは分かったけど、なんで制服?」
冷静な柴咲に郁はうっと声を詰まらせた。
「玄田隊長が、学生相手なら油断するだろうって」
もう彼に何を言っても無駄であるのは、その作戦を言い渡されたときに散々堂上が抗議をしたことで知っていた。
はあ、と何度目か分からないため息を吐いて、玄関に出しておいたローファーを履いた。
「運動靴じゃなくていいの?」
「うん、タイツに運動靴は微妙だから…ローファーのが自然だろうって」
郁は学生鞄を肩にかけてドアノブを回した。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「いってきます」
パタンと扉が閉まる寸前、郁の本日最大のため息が聞こえた。