*Another-Future*

□2人を繋ぐもの
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控え目な鈴の音が響いて、店内に来客が訪れたことを伝える。
近くにいた店員と思しき女性が、小さく澄んだ声で「いらっしゃいませ」と微笑んだ。

白を基調とした店内は、入口が吹き抜けになっていて開放的だった。
天井から吊された照明は、仄かな光りで幻想的な空間を演出するのに成功している。
静かに流れるクラシックと、外の世界より温かいが効きすぎていない暖房に、客への配慮が行き届く良い店だと思った。



「すみません」

「如何なさいましたか?」

「婚約指輪を探しているんですが…」

「おめでとうございます」



品良く微笑む女性店員に、堂上は幾分やりずらそうだ。
郁はと言えば、初めて踏み込んだ世界に混乱状態で、2人の会話も届いてないようである。
そんな郁に女性店員はくすりと笑うと、「奥様の指のサイズは如何ほどですか?」と優しく問い掛けたが、相変わらず反応出来ない郁に堂上はため息をつくと「郁、」と腕を引っ張った。



「はっ、はぃい!?」

「煩い!」

「すっ、すみません!」

「指のサイズは幾つだ?」

「へ?あ、えと、7号です!」

「畏まりました、少々お待ち下さい」



2人のやり取りにまたくすくすと笑いながら、女性店員は店内の奥へと姿を消した。



「…郁?」

「、は、はい?」



堂上の呼び掛けに、郁の身体がびくりと揺れる。



「やっぱり…出直すか?」

「え、な、なんで、」

「お前混乱してるだろう」

「だ、大丈夫です!帰りませんっ」

「…でも、」

「…もし、」

「?」

「…もし、今やめたら…気持ちが変わっちゃう気がして…」

「…それはお前の、か?」

「ちが、違うっ…あたしじゃなくて…」



教官の気持ち…

俯いて小さく呟いた郁は今にも泣きそうな声でそう言うものだから、堂上はどうしたものかと思い悩む。

(…そんなの、俺だってそうだ…)

心の中で1人ごちた堂上は、安心させようと郁の頭を出来る限り優しく撫でてやった。
それにぱっと顔を上げた郁に、堂上は微笑んで。



「阿呆、」



こつん、と小さな拳を落とした。
思いが伝わったのか、郁はこくりと頷いて、真っ赤な顔を隠すように俯いた。

程なくして、先刻の女性店員が幾つかの指輪を持って戻ってきた。



「こちらは今若い恋人の皆様に大変人気なデザインとなっております。余計な装飾品は一切ない、シンプルかつ美しいデザインです」

「こちらは人気アクセサリーデザイナーの今冬最新のデザインです。ちりばめられた宝石を天の河に見立てて、お2人の変わらない愛の絆を表現しております」

「こちらは古くから数多くの方々に愛されてきた定番デザインですね。著名人の方々もお買い求め下さるほどなんですよ」



幾つものデザインの指輪とそれについての解説(?)を聞かされた堂上は最後の方はぐったりとしていた。
郁は流石女性というか、一々「綺麗ですねー」とか「へぇー、そうなんだあ」とか、来た始めとは打って変わった様子で女性店員に相槌を打っていた。その瞳はキラキラと輝いている。



「お気に召されたものが御座いましたら、是非着けてみてご覧になって下さい」

「えっ、良いんですか?」

「えぇ」



笑みを零す女性店員を尻目に、郁は、えーどうしよう悩むなあーと1人うんうん唸っている。
そんな郁の初めてみる可愛らしい表情に見ていられなくなって視線を外した堂上の目に、ふとある指輪が飛び込んできた。



「…すみません、」

「はい?」

「…これ、出して頂けませんか」

「畏まりました」



透明なケースから示した指輪を取出した女性店員は、こちらでよろしいですか?と2人の前に指輪を差し出した。



「…、あ…これ…」



その指輪を見た瞬間、郁が息を呑むのが空気で分かった。



「こちらは世界に2組しかないと言われる指輪です。芸術的な作品を数多く世に生み出したといわれる彫刻家が人生で最初で最後に作ったとされる、指輪だとかで…」



女性店員の指輪の説明をどこか遠くで聞きながら、郁と堂上はその指輪を凝視していた。

綺麗に磨き抜かれた銀の輪に円を描くように小さな宝石がちりばめられていた。そしてその宝石がぐるりと一周囲むその中に、一際大きな宝石がひとつ、その身を輝かせて燦然とした光沢を放っていた。
ただのダイヤとは違うことは一目瞭然、といったところか。
その宝石は光りを浴びる度、それも違う角度で浴びる度にその色を変えているのである。
七色に煌めくその光りは、見る者を引き付けて止まない、そんな妖しさと美しさを持っていた。
そして何より、2人が息を詰めてそれを見つめる、その理由。

宝石の中には、ひとつの花がその光りに混じって写し出されていたのである。



「…教官、これ…」

「…あぁ…」



郁の震える指が堂上の服袖を弱々しく掴む。
堂上は瞳を細め、郁の頭をゆっくりと撫でた。



「ありがとうございました」



店の外まで送ってくれた女性店員が恭しく頭を下げる。
それにつられて郁と堂上も頭を下げた。



「こちらこそありがとうございました。本当に素晴らしい指輪です」

「誠にありがとうございます」

「でも、良いんですか?世界に2組しかない指輪を頂いてしまって…」

「きっとその指輪は、お客様達のために作られた指輪だったんだと、思います」



心からのその言葉に、堂上と郁はぺこりと頭を下げると、手を繋いで人込みの中へと消えていった。





























(ねぇ教官?あたしたちで、幸せな家庭作りましょうね)
(何に誓う?)
(それは勿論、――――)

この、指輪に



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貰い物。

花はカミツレじゃないかなー。
 

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