気まぐれ短編
□Princess
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「ねぇ、小川君、」
「?...なんですか、岡崎先輩」
仕事終わりの夕方。
今日はたまたま仕事が早く終わったため、オレはヘアメイクアーティスト仲間の先輩、岡崎 杏南(おかざき あんな)とバーに来ていた。
さすがにこう早い時間だと、人も少ない。
…なんでこんな時間から飲みに付き合わされなきゃなんねーんだよ。
岡崎先輩は茶色い綺麗な巻き髪をくるくると指に巻き付けている。
...言いたいことあんならさっさと言えっつーの。
あー、オレ、まだまだダメだわ。
口の悪さは昔っから変わんねーや。
根っからの不良だからなー。
「付き合ってる人とかぁ...居る?」
「居ません」
「っ、嘘!?え、もう30半ばじゃない!!前聞いたときも居なかったわよね!?」
「そうですね」
「じゃあさ、あたし今フリーだけどぉ...付き合っちゃう?」
「...」
やっぱりこの手の話、か。
はぁ、とオレは小さくため息を吐くと、一万円札をテーブルに叩き付けた。
「先輩は、先輩以上でも以下でもないですし、これからも変わることは無いですよ」
怒りによって引きつる頬で、なんとか笑みを作る。
このままじゃ、仕事に支障が出るしな。
「先輩、ごちそうさま」
こういうムカつく日には、あいつん家に行くに限る。
オレはまだ入ったばかりだというのに、颯爽とバーから抜け出した。
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