シリーズもの&中編
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杏SIDE
――嘘?
―――だよね?
――――政宗が私を抱きしめてくれてる。
政宗SIDE
――嘘?
―――だよな?
――――杏が俺の腕の中にいる。
気のせいかと思った。
部活を終えて帰ろうとしたら、ふらふらと教室に入る杏の姿が見えた。
気がした。
気のせい。
それでもいいと思って教室に入った。すると、
あの大きな瞳をいっぱいに濡らした杏がいた。
泣いている杏を見たとき、俺は今まで我慢してきた思いが弾けとんだ。迷わず杏を自分の腕の中へおさめた。ずるいって事ぐらい分かってる。泣いてるってことは少なからずつらいことがあったんだ。それを俺は利用している。
そう心の中ではわかってるけど抱きしめる手の力を緩めることが出来ない。もう二度と離さない。そう思った。
一応泣いている理由をたずねてみたけど、こういうときだけ強がりな杏は思ったとおり泣いている理由を話さなかった。
「大丈夫。」と強がる杏を黙って見てはいられなかった。
お互いの鼓動しか聞こえない、静かな静かな時がすぎた。
杏SIDE
トクン、トクン。
私と政宗の鼓動のリズムが重なる。
このまま気持ちさえも重ねてしまえたら、、。
「!!」
突然体を跳ねさせた私に政宗は驚いて、
「どうした?!」
と優しい声色で聞いてくれる。
でも私はその優しさに答えられない。
「あの、私、ごめん!!」
政宗の腕を思い切り振りほどいてバックを持って教室を飛びだした。
政宗SIDE
「ごめん。」
またゴメンか、、、、。
きっとアイツが謝ることなんか1つもないのに、杏は俺に謝ってばっかりだ。
トクン、トクンと重なり合った鼓動はまた離れていき、重なりそうな気持ちはまたすれ違った。
振り子のように行き過ぎなければ戻れない。
俺と杏の気持ち。
どうしてあの時杏の手を離してしまったんだろう。もう二度と離さないって決めたのに。
――後悔
この二文字が俺の胸にまた刻み込まれた。
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あとがき
振り子のように行き過ぎなきゃ戻れない。これは私の大好きなアーティストさんの「Lill`B」さんの「オレンジ」という曲のフレーズです。
まさにこのお話の2人にぴったりだなぁと思い使わせていただきました。
杏ちゃんは自分のせいで政宗が傷つくのを恐れ、またそれは政宗も同じなのです。
一度離れてしまった気持ちはもう一度重なることを望んでいるのに、恐くて一歩も近づけない。
ここまで読んでくださり有難うございました。