シリーズもの&中編
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あの日杏を抱きしめた。
久しぶりに手にした温もりは優しくてでも、儚くて今にも消えてしまいそうだった。
離さない、いや離せないそう思った。
でも、杏は
「ごめん。」
そう言って俺の手を振り払った。
もう、お前には俺の手は必要ないのか。
もう、抱きしめられないのか。
もう、慰めてやることさえもできないのか。
もう、、、
もう戻れないのか。
今日も泣きそうな顔の杏。
なあ、お前をそんなに悲しませるのは何なんだ?
それは、、、、、
―――俺なのか?
忘れたい、忘れられない。
伝えたい、伝えられない。
もどかしい気持ちを抱えたまま毎日を過ごしていた。
「ちょっといい?」
声をかけてきたのはいつも杏のそばにいる沙羅って子だ。
「何だ?」
今は話なんてしてる気分じゃねぇんだけどな。
「杏ね、、この前泣いてたの。いい加減素直になりなさいよ。」
素直になる?
そんなことができたらどれだけ楽か。
俺の気持ちも知らないで。いくら杏の親友だったとしても俺たちの関係に口出ししないでほしい。
今の俺の気持ちを杏に伝えてしまったら今の俺たちの関係さえも崩れてしまいそうで、挨拶さえも交わせなくなってしまいそうで、もう二度と話すことさえできなくなる、そんな気がして怖い。
「素直になる?あんたには関係ねぇ。」
「関係ない?よくもそんなことが言えるわね。あんた杏がいまどんな気持ちでッ、、、まぁいいわ。私は関係ないですものね!いつまでもそうやって逃げ続ければいいわ!」
沙羅って子はそういい捨てると足早に去っていった。俺にあんな強気な女子は初めてだった。怯えるか媚びを売るか、そのどちらかだと思ってた。気になったのはもう1つ―――
「あんた杏が今どんな気持ちでッ、、、まぁいいわ。」
杏の気持ちって何だ?
聞きたかった、知りたかったが関係ないと言われたのに相当頭に来ていた沙羅は教えてくれなかった。
―――いつまでもそうやって逃げ続ければいいわ。
確かにそうかもな。
結局は俺が一番臆病なんだ。いろんな理由をこじつけて杏に気持ちを伝えるの拒んでいる。俺は、、ただ、、杏に俺の気持ちを受け入れて入れてもらえないこと、拒絶されることが怖いんだ。
頭では分かっている。
分かっているつもりだ。
でも、
それでも、
―――それでも俺は臆病なんだ。
強がってカッコつけて杏のこと誰にも渡したくないって思うのに。
大事なものは何一つ守れない。
ーーーーーーー
あとがき
今回は政宗のほとんど独り言でしたね。
政宗は気持ちを伝えることを迷っています。もちろん今でもヒロインのことが好きです。だけど好きだからこそ臆病になり、好きだからこそ手が出せない。好きだからこそ拒絶されたくないんです。
「恋」なんて一言で片付けてしまうにはものすごく重い気持ちなんですね。「恋する」ということは。
ここまで読んでくださった皆さん有難う御座いました。