シリーズもの&中編

□10
1ページ/1ページ









正直言ってきつかった。

あんなにも想っていたはずの杏が少しずつ遠くなっていくようで。
思うままに素直な気持ちを伝えた佐助。
それに比べて俺は臆病で、杏に気持ちを伝えるのが怖くて恐くて今もこの暗闇にはまったままだ。

1人でぼーっと考えていた放課後。
そんな俺を現実世界に引っ張り戻したのは佐助の声だった。
「杏ー!帰るよー。」

いやきっと「杏」とういう名前だったのかもしれない。

「うん!今行くね!」

愛しい彼女の弾んだ声がする。
ここのところ何処か塞ぎこんでいた杏は俺に佐助から例のメールが届いた日あたりが少しずつ元気になっていった。そしてその日からいつも佐助と一緒に帰るようになっていた。

そんなに佐助からの告白が嬉しかったのか?
もしかしてもう付き合っているのか?

こんなにも疑問が浮かんでくるのに、直接聞く事はできなくて。

1人でグルグルと考え込んでいたらいつの間にか教室には俺1人になっていた。

俺もそろそろ帰るか。
帰り支度を済ませて教室から出かかった時、制服の袖を掴まれた。

「こんにちはぁ、政宗君。私だよ?高橋華奈。覚えてる?」

目の前には1人の高橋と名乗る女がいた。

「Ah?知らねぇ。」

俺が冷たくそう言うと、
「ひっどーい。この前告白したのにぃ。でも私、彼女いるからってフラれたんだよね。だから悔しくってさぁ。いろいろ意地悪しちゃった。」と猫なで声で体を擦り付けて言ってくる。

悔しい?
意地悪?

「どういう意味だ?」

返ってきたのは衝撃の事実だった。

「だってさぁ、この私があんな女に負けるなんてありえないでしょぉ?だから「政宗と別れないと政宗に危害を及ぼす。」って手紙を送ったりしていじめたの。そしたら馬鹿正直に別れちゃって。まじ笑える。」


どういう、こと、だ?

杏は俺を守るために、俺を守るために別れを告げたっていうのか?

脳裏に杏の泣き顔と苦しそうな笑顔が浮かぶ。


「shit!ふざけんな!」

俺の怒りにも動じず高橋は

「だってもとはと言えば政宗君が悪いんだよ。アイツがあなたと付き合ったからいじめられてる事にも気付かなかったみたいだし。私をフるから。」

と飄々といってのけた。

悔しかった。
こんな奴に杏を傷つけられた事が。
苦しんでる杏に気付かなかった自分が。守ってやれなかった自分が。


「用件は?」

「今ここでキスして。」

コイツはまた何か企んでいるのか?
これで俺をモノにできると思っているのか?

まったく気持ちはなかったが「してくれたら杏のことを考えてやる。」というので気持ちがゆり動いてしまう。杏もこんな気持ちだったのか?

ゆっくりと近づく唇。

ガタンッ

大きな物音に停止した体。
そしてその先にいる人物に停止した思考。

「杏―。」

そこにいたのは今一番逢いたくて、今一番逢いたくない人。


「あ、え…と、ごめんなさい!」

驚いて目を見開いた杏はそう言うと走り去っていった。

「あーあ、見られちゃったねぇ。」

意地悪く口角を吊り上げた高橋。
もう、押さえきれねぇ。

ガンッ

傍にあった机を蹴飛ばす。
ビクっと反応した高橋を思い切り睨む。

「俺はお前なんてどうでもいい。だが、杏を傷つける奴は例え女であっても許さねぇ。」

今までで一番ドス黒い声だった。
高橋はそんな俺の様子に怯んだようで
「私だってもう知らないわよ!勝手にすれば!」

そう叫び散らして走り去った。

こんなことしてる場合じゃねぇ!
俺は無我夢中で走り出した。


あの小さな背中にどれだけ重いものを背負っていたんだろうか?
その小さな体で俺のことを必死に守って。

あの日掴めなかったキミの手を。
掴む為に、もう二度と。

決して離さないように――


ーーーーーーー
あとがき

ようやくこの展開までやってきました。
次回で最終回です。
ここまでいろいろありましたがいよいよ次が最後です!

高橋ちゃん嫌な奴ですね。でも彼女にもきっといろいろあったんですよ!←え
次回、お楽しみに〜。

ここまで読んでくださった皆さまありがとうございました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ