シリーズもの&中編
□一枚上手な
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「佐助なんて大っ嫌いっ!!」
勢いで思ってもないコトを言ってしまった。
でも、でも佐助が悪いんじゃない。
黙ってこちらを見つめる佐助の揺るぎない瞳を見ながら、この喧嘩の原因を思い出す。
今日は、私と佐助が付き合い始めて1年の大切な大切な記念日だった。
大学生となっても、こんなことにはしゃぐのは子供っぽいのかもしれない。でも、それぐらい嬉しかった。
そして1人初めて出会った日とかを思い出したりして、大好きな彼の帰りを一緒に住むようになった家で待っていた。
でも、待っても待っても帰ってこない。
佐助は私とは大学が違うから帰る時間も違うけど、こんなに遅くなる日はちゃんと連絡をくれる。
時刻は夜9時をまわった。
私は傍にあったコートを羽織って、そのまま玄関へと向かった。
「はぁ、はぁ。」
乱れた息は空中に白く丸を描く。
そういえば佐助と出会った日もこんなに寒くて確かこの辺り…
いた!!
オレンジの髪の毛にスラッと長身。
いつもつけてる迷彩のヘアバンドが彼の印。
「佐助!!」
名前を呼んで近づこうとして、足が止まった。
だって隣には私の知らない女の子。
一瞬で思考が止まった。
こんな私の心境なんて知るよしもない彼は私を見つけると、
「あ!杏ちゃん!」
なんて暢気に手を振ってこっちに向かってくる。
黒くてドロドロとしたものが心の底から湧き上がるのが分かった。
これは、嫉妬だ。
そして出会い頭に叫んだのだ。
「佐助なんて大ッ嫌い!!」
と…。
真っ直ぐに私を見つめる佐助。
街中で叫んだものだから、いつの間にかたくさんの人の視線を集めている。
「杏ちゃん、ホントにそう思ってるの?」
純真な、ただ真っ直ぐな瞳。
少しだけ鼓動が跳ねた。
「っ!」
言葉に詰まった。
だってホントはそんなこと思ってない。
少しずつ距離をつめていた佐助はグイッと私の腰を抱き寄せる。
佐助が触れるところ、見つめるところ全てが熱を帯びていく。
一気に近づいたお互いの鼓動。
「ホントにそう思ってるの?」
もう一度同じ質問を繰り返す。
瞳は意地悪く笑って、妖艶に口角を吊り上げた。
こ、コイツ私がそんなこと思ってないって分かって言ってる!?
なんでもお見通しの佐助、それが悔しくて精一杯虚勢を張る。
「ホントよ!佐助なんて嫌い!」
私が叫べば叫ぶほど佐助は楽しそうで。
「嫉妬だ。」
なんて意地悪く言った。
図星だったのが余計に恥ずかしくて、頬に熱を溜める。
「くっ〜。」
悔しくて唇を噛み締めている私。
そしてここで閃いた。
私はきつく噛み締めた唇を無理やりに佐助のソレに押し当てる。
そして驚く佐助を「どうだ!」とばかりに見返して、
「これで最後よ。バイバイ。」
と言ってやる。
すると佐助は
「そっか…。」
とだけ言ってあっさり引き下がった。
あれ?
嘘、待って。今のは…
思わず離れていく佐助の背中に手を伸ばした時に
「っん!!」
ちゅ、
と唇にあたるソレは確かに佐助のもの。
びっくりしてまたもフリーズする頭。
「杏ちゃんの嘘ぐらいお見通し。嫉妬してくれて嬉しかったよ。でも、あの子はホントになんでもない。ちょっと転んでたのを助けただけ。」
そう言っていたずらっぽく笑った。
一枚上手な
一枚上手な優しいキスに心を射抜かれた冬のある日。
「杏ちゃん真っ赤。可愛い。」
「う、うるさい!」
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