novel#

□白夜伝説 起3
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鷲のような大きさのカラスの大群がこちらにやって来る。

きっと、セイレーンが先ほど倒した牛の死体に反応したのだろう。

カインら5人が厳しい顔で迎撃をするのに対し、セイレーンは薄く笑うと飛び、自らカラスの中に突っ込んでいった。

頭の刃が回転し、カラスが次々に撃墜されていく。

カラスの死骸と共に血の雨が降ってきた。

「ぎゃあ!!」

マリアンナが悲鳴を上げながら血の雨から逃げようとする。

一方でセイレーンは、10匹ほどカラスを倒すと重力の法則に従って落下し、それから態勢を立て直して着地した。

直後にナッツが雷の力を含ませたブーメランを投げる。

「稲妻旋風!!」

ブーメランが竜巻を起こし、その暴風が次々にカラスを嵐の中へ巻き込んでいった。

雷の力で感電したカラスの動きが鈍り、また何匹かはそのまま死んだ。

「サイバーショット」

更に、ブランティスも射撃でカラスを次々と撃ち抜いていく。


だが、それでもカラスは全体の3分の1しか倒せておらず、一匹がマリアンナに向かって猛突する。

「きゃあぁ!!こっち来ないでぇ!!!」

彼女が無我夢中でナイフを投げると、それは奴の腹に命中し、奴はゆっくりと落下した。

「はああぁぁぁぁっ…」

カインが、ずっと溜め続けていた風の魔法を拳に抽出する。

意識を手の先だけに集中させて…


「昇龍連舞!!」

舞い上がるようにしてアッパーをかまし、次々にカラスを倒していく。

エリアスも、近くに来たところできゅるんと小刀を回して戦い始めた。

森に住んでた頃からしていた狩りの要領で、カラスを斬っていく。

それから水と風の力を利用し、技を繰り出した。

「雪月花!」

まるで風呂敷を広げるように着物がぶわっと舞い、魔法によって現れた花びらの嵐が巻き起こる。

更に、水の力も重なってカラスをその花びらの舞いに巻き込み、流して行く。

まるで洗濯機のようだと、カインは思った。


帰ってきたブーメランを取ったナッツが愚痴を零す。

「…数が多いな、まったく!!」

「ああ、確かに多い」

セイレーンが調子を合わせる。

しかし、彼女の目は生き生きとして楽しそうだった。

「だからこそ、倒し甲斐があるものさ」

彼女は頭の刃を激しく回転させながら、再び空へ跳ぶ。

残りの巨大カラスが彼女の周りに集まると、セイレーンは刃を回しながら空を舞った。


その姿は麗しく、そして…恐ろしかった。

寄ってたかるカラスを、彼女は空中で回りながら墜死させていく。

ある時セイレーンは、その回転を一層増すとこう叫んだ。

「烈風覇斬!!」

刃だけでなく、風が斬撃となって魔物に襲いかかる。

そして、今の一撃でカラスは全滅した。


彼女は地面にふわりと着地する。

表情はとても満足そうだ。

「そういえば、さっきの質問に答えてなかったな」

マリアンナにもらったハンカチで雑に体を拭きながらセイレーンは言う。

「機械人は、戦いのための道具だという教育を受けた。だから私は戦いしか知らない」

道具、という単語にブランティスが反応する。

「道具って…そんな」

「…知ってるか?混血型機械人の誕生の仕方」

青ざめた顔で言うエリアスに、ブランティスが肘鉄を入れる。

それから彼は、話し始めた。

「混血型機械人は、ニンゲンの遺伝子に機械を混ぜて誕生する。クローン人間みたいなものだ。無論、親などいない。生産だからな。道具と言われるのも、分からなくは、ない」

「でもそんなのおかしいじゃない!!」

マリアンナが声を荒げた。

セイレーンが彼女に首を向ける。

「おかしい、とは?」

「…じゃあ逆に訊くけど、セイレーンは、人じゃないの?」

「………………」

彼女の問いに、セイレーンは押し黙った。

その間にマリアンナは立て続けに彼女を責める。

「あたし、妖人も機械人も、まとめて人間だと思ってるよ。道具なんかじゃない。自分でそんな事、言わないで…」

語尾が弱くなる。

言ってて悲しくなったのだろう。

カインは、目線を左右に動かした。

知らなかった。

妖人だけでなく、機械人も、差別的な扱いを受けてるだなんて…

セイレーンはひと息つくと、飛び立つ準備をした。

「…ともかく、私は一旦失礼するよ。妖人とやらを、もっと見てみたくなったからな」

「あ、ああ…」

戸惑うカインに、セイレーンはくすりと笑った。

「また会えたらな、人間」

と言うと、彼女は頭の刃を器用に使って飛び、去っていった。

少しだけ、空気が重くなる。

「…とりあえず、レンディアへ行こっか」

エリアスが無理して笑い、先を歩く。


それに全員がついて行く。

その中でカインは、最後尾につくと差別について考えだした。
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