novel#

□白夜伝説 承2
2ページ/6ページ

木々に囲まれた中、レオスと山賊の頭は、互いに正面から向き合っていた。

山賊の足下にある死体から、血の臭いが微かに漂ってくる。

思わず、鼻をつまむ。

「みんな、下がって。1人で戦う」

レオスが言う。

「尤も、巻き込まれたいのなら別にいいんだけど」

更に、嫌味を付け足した。

それにカインはむっとするも、自身の武器では分が悪いと悟り、言われた通りに引き下がった。

「私もか?」

セイレーンが異を唱える。

「…君が一番邪魔だ」

レオスは低い声でそう言うと、槍を持って駆けた。

山賊の首領は、銃の先に短剣を取り付けると、それでレオスの一撃を受けた。

そのまま、接近戦に発展する。

セイレーンが唇を尖らせた。

「何だよ、自分だけ手柄を取りに行こうと…」

「うおおおァッ!!」

急に、獣のような咆哮がした。

それに驚きつつそちらを見ると、ブランティスが山賊の棍棒を腕で防いでいる。

「きゃっ…」

エリアスが、口を手で軽く抑えて道を見ている。

すると、他の山賊たちも、よろめきながらも立ち上がっていた。

どうやら、まだ戦うつもりらしい。

「まるでゾンビだな…」

口内に溜まった唾を飲んで、カインが言う。

先ほどまで感じていた怒りは消え、今は、冷静に周りを見渡していた。

「あ、あんな風に…殺されたくねえ!!」

「手柄を立てれば…」

男たちは、青ざめながら喚いた。

歯がカチカチと小刻みに音を立てている。

「無駄だ」

ブランティスは、それを一蹴すると狼狽する男たちの腹に拳を入れた。

鳩尾に入ったらしい、棍棒で殴りかかった男はそのまま気を失って倒れる。

しかし、息のある山賊は戦意を失っていないようで、武器を持ってこちらを睨んでいる。

セイレーンがふう、とため息をついた。

「本当に弱いな…だが、戦う意思があるならばそれに応えるのが筋だ」

「ったくレオスの奴、面倒なの押しつけやがって!!」

ナッツが耳を垂直に立てて怒りを露わにする。

マリアンナが肩を回し始めた。

「しっかたないわねぇ…」

カインもうん、と頷いて拳を手にパン、と打ちつけた。

「ああ、迎え撃つぞ!!」




一方レオスは、その山賊を束ねる男と接近戦を続けていた。

刃が頬を掠り、熱がほとばしって血が噴き出る。

レオスは鋭い痛みに顔を少し歪め、距離をとった。

その途端、男は刃を外して武器を銃に持ちかえる。

そのまま、こちらに向かって連続で発砲してきた。

一発目は避けた時に翻ったマントに当たったと感触で理解し、二発目は後ろの木に直撃した。

ちらりと見ると、幹に抉られたような罅が入っているのが見える。

レオスは、三発目が発射されたと同時に素早く槍を持って走り出す。

それから態勢を低くして懐に入り込み、銃を持っていた腕に槍を突き刺した。

血が舞い上がり、男は顔を苦痛に歪める。

喉の奥から、嗄れた声が漏れて出てくる。

銃がぱっ、と奴の手から零れた。

レオスは素早くそれを拾って没収し、槍の先端を男の額に当てがった。

男の瞳孔は開かれており、顔には脂汗が浮いている。

レオスは嘲笑した。

「どうした?死の淵を正面から覗き込んだら怖くなったのか」

恐怖に引きつった顔が、問いの答えを示している。

怖いんだ。

つくづく、人間は滑稽な生き物だと思う。

レオスは、すっと槍を引いた。

途端に、男は安堵した顔つきになる。

だが次の瞬間、レオスは素早く槍を振り上げ、勢い任せに先を奴の頭に突き刺した。

頭蓋が砕けた音がして、血が派手に飛び散る。

「!?」

雑魚を片付けていたカインたちが、一斉にこちらを向く。

レオスは、冷たい目をしたまま、男を見下ろしていた。

血塗れの槍と鎧を見て、そこで何が起こったのかを全員、理解していた。

「にっ、逃げろォ!!」

まだ意識のあった男たちが、よろけながらも一目散に走り出す。

こうして、山道には2体の死体と、気絶した男たちが転がった。

「…もう、いいでしょ?」

エリアスが恐る恐る訊ねる。

「……うん、そうだね…」

レオスはこちらの誰と目を合わせずに言う。

「ちょっと待てよ!!」

カインが彼の後ろ姿を睨みつけた。

レオスの動きが、ぴたりと止まる。

「それじゃお前も…首領の男と同じじゃないか!!」

「…だから?」

ひどく沈んだ声で、レオスが返す。

「生きるためには、殺人だって必要な時があるんだ」

彼の答えに、カインは引き笑いを見せた。

「よく言うよ。耳見られただけで脅迫したくせに」

カインの言葉を聞くと、レオスは一瞬で間合いを詰めて彼の腹を槍の石突きで殴った。

うずくまって思わずむせる。

器官に入ったらしい、苦しさに激しく咳き込んだ。

「レオス!!」

彼の行動に立腹したエリアスが、嫌悪感の滲み出た眼差しを彼に向ける。

「…っ!!てめぇ!!」

カインも、怒りのこもった目で少年を下から睨む。

「耳を見られただけだって?ふざけるな。それが僕にとってどれだけの絶望かわかって言ってるのか!!」

こちらもまた、本気で怒っているようだった。

太陽を背にしているせいで、余計に恐ろしく感じる。

「知らねえよそんなもん!!お前は…ただの人殺しだ!!」

「ちょっと、2人とも…」

マリアンナも止めようと割って入るも、それは2人の耳には届いていないようだった。

白昼、こうして少年2人の死闘が始まった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ