novel#

□白夜伝説 承2
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「あああぁあおあぁあぁ!!!」

「はあああぁぁぁっ!!!」

だだっ広い林の道に、少年2人の雄叫びが響き渡る。

カインがレオスに殴りかかる。

だがレオスはそれを、槍の柄で防いだ。

そのまま彼は槍を回すと、先をカインに突き刺そうとする。

カインはその一撃を間一髪避け、お返しと言わんばかりに頬に一発入れた。

鈍い音がした。

もしかしたら、頬骨にヒビが入ったかもしれない。

カインは、少し引いた。

その僅かな心配が油断を生んだようで、次の瞬間、槍の先端がカインの左腕を貫通し穴を開けた。

「があぁぁあ!!!」

思わず悲鳴を上げる。

「カイン!」

エリアスがカインに近寄る。

「来るなエリアス…大丈夫だ…」

「でも、仲間同士でこんな争いをするなんて…」

「仲間?」

レオスが、吐き捨てるように言った。

「冗談じゃない。僕はここにいる人間たちの事を仲間だなんて思ったことは一度もない」

その一言に、エリアスは悲しみと苛立ちをない交ぜにした表情でレオスを凝視した。

「…奇遇じゃねえか…」

よろめきながらカインが立ち上がる。

「オレも、てめーを仲間だなんて思ってねえよ!!!」

「カイン、それは言い過ぎじゃ…」

マリアンナがまた口を挟む。

「うるせえ!!!」

だが、カインは彼女を恫喝してレオスと向き合った。

マリアンナは肩をびくっと震わせると、それっきり、黙り込んでしまった。

セイレーンが目を細める。

「面白そうじゃないか。私も混ざりたいんだが…」

「今そんな空気じゃないから、セイレーン少し大人しくしててくれるか?」

ナッツが、呆れ顔で彼女を止める。

ブランティスが首を振って戦況を確認した。

「現在、ダメージは五分五分と見た。だが、武器である拳がひとつ使えないぶん、カインが不利か…?」

すると、レオスは治癒魔法を唱え、頬の傷を軽く治した。

腫れが引いて元の顔つきに戻る。

「そうか…てめーにはそれが、あったんだよな…」

痛みで顔を苦痛に歪めながら、カインは言った。

腕からは血が止め処なく溢れ出ている。

「ねえ、カイン」

レオスが、不自然に優しい口調で切り出す。

「君は、悪行を犯した人間は、死んで償うべきだと思うかい?」

「…?何だよいきなり」

「いいから、君の考えを聞かせてほしい」

カインはしばらく考えると、レオスと向き合って答えた。

「思わない。だって人はみんな、死ぬために生まれてきたんじゃないだろ。一度の失敗で人生終わりにさせるのは、駄目だと思う」

「…ふーん…」

レオスは槍を地面に立てた。

「やっぱり僕とは逆の考えだ。僕は死ぬべきだと思うよ。生きてても仕方ないだろ、そんな奴」

「じゃあお前はどうなんだよ、レオス?」

それを聞いたレオスは、人を馬鹿にしたような顔になった。

「さっき言っただろ、生きるためには、殺しだって必要な時があるって」

完全に矛盾した言い分だった。

怒りを通り越して呆れてくる。

唇をわなわなと震わせていると、不意に、後ろから声がした。

「おい、こっちに誰かいるぞ!!」

「もしかしたら犯人かもしれん!」

男たちの太い声にぎょっとした。

「逃げたほうが得策だな」

ブランティスが無感情に言った。

「ああ、コーレンツまで走ろう!!」

カインが場を仕切り、7人は一斉に走り出した。

だが、レオスだけ、最後尾で複雑な表情を浮かべていた。

















兵士たちの姿が見えなくなった頃、ようやくコーレンツにたどり着いた。

疲労がどっと押し寄せる。

「ん?君たちは…」

膝に手をついて呼吸を整えていると、前方から淡の絡んだ声がした。

顔をあげると、そこには、眼帯をつけたあの老人が立っていた。

「あんた、確か…」

「エストルディア!?」

カインが名前を思い出す前に、エリアスが割り込んで正解を言った。

「おお、そうじゃが…何をしとるんだね、こんなところで」

彼は、蓄えた長い髭を手櫛で解かしながら訊ねる。

「あ、いえ、ちょっと…」

「宿屋を探してるんです!」

カインが返事に詰まっている間に、マリアンナが代わって答えた。

「この辺、どこかありますか?」

彼女は上目遣いをしながら、媚びるように言った。

するとエストルディアは、小さな目を大きく見開いて提案した。

「おお、それならば、もしよければ、儂の家に来るかね?」

「えっ!?いいんですか!?」

マリアンナが目を輝かせる。

「おお、久しぶりに賑やかな夜になりそうじゃ」

そう言って、彼は笑い飛ばした。

セイレーンが、不意に振り返って空を見上げる。

「どうした?」

それに気づいたブランティスが訊いた。

「…多分、今日は白夜だ」

白夜というワードに、ナッツも反応し上空を見渡す。

「うーん…そうかもなー」

ぽつりと言ったナッツの瞳に、一番星が映った。





















同時刻、政府では新たな動きが展開されていた。

罪人を確実に逮捕するために、兵士を更に投入するというものである。

そんなことに何の意味があるのかとは思うが、まあ、多少は取り締まれるだろう。

「よう」

逆立った、燃えるような赤髮が特徴的な男が、自分に、話しかけてきた。

「何の用だ?」

自分は、軽くあしらうように言った。

「お前はどこに行くんだよ?」

「レイグ山だ。人間と妖人の土地の境界となる…」

「ああ、あそこな」

男は、興味なさげに相槌を打つ。

「オレもそこ」

「…だから?」

あまりにくだらない会話に、自分は苛立ちを募らせる。

「だからさぁ、一緒に罪人、捕まえられたらいいなーって話よ」

ふざけたような言動で、男は自分の肩に手を置いた。

この男は…。

自分より10歳も年上のはずなのに、精神が幼すぎる。

自分は男の腕を振り払うと、事務室へ向かおうとした。

「特に、こないだ政府守護獣殺した連中」

それを聞いて、自分はぴたりと足を止めた。

「…ああ、そうだな」

それから、動揺を悟られないように軽く流すと、自分は再び歩き始めた。

一報を聞いた時は「守護獣を斃せる人間なんていたのか」と驚いただけだったものの、手配された人物たちの中に知っている顔が混じっているのを見て、愕然とした。

あのときの衝撃は、未だ忘れられない。

だとしたら、自分は何をすべきか…と思ったのだが、自分のとるべき道は、ひとつだった。

自分は、自分の正義を貫くだけだ。
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