novel#

□白夜伝説 起3
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女は、広い湿原で魔物と向き合っていた。

それは巨大な闘牛で、古代の神話に出てくるものに例えるならミノタウルスのようである。

女は頭についた刃を戦闘用に伸ばすと、ミノタウルスのような魔物に単身で戦いを挑んだ。

奴の猛攻を避けつつ、斬撃や踏襲撃を奴の体に少しずつ叩き込んでいく。

彼女が舞うたびに、ラベンダー色をした綺麗な毛髪が風に靡いた。

牛は既に、かなり疲労している。

「女が1人で戦ってるぞ!!」

「うっそォ!?あれ相手に!?」

何だか後ろが騒がしい。

いつの間にかギャラリーが集まっていたらしい、人間が4人と機械人が1人、確認出来る。

何だか気になる人種もいるが、構うものか。

今は、奴だ。

女は、とどめの一撃を入れようとツインブレードを掲げて宙に飛び上がった。




























数分前。

「それで?」

ナッツが手を頭の後ろで組んだまま話しかける。

「次はどこ行くわけ?」

「レンディアだよ。ブランティスの治療もしたいから」

「…ふっうぅぅ〜ん…」

訊いておきながら、ナッツは冷めたようにそっぽを向いた。

エリアスの耳がぴくりと反応し、ナッツへ疑問符を示す。

「どうして?最初の目的地でもあったじゃない」

「どうせオレとエリアスとブランティスは変な目で見られるんだろ」

彼が嫌みったらしく放った一言に、場の空気が重くなる。

「…そうだな。色眼鏡で見られるのはまず間違いないだろう」

完全には回復してないブランティスも、ゆっくりと歩きながら言った。

このパーティでは人間という普遍的な種族であるカインとマリアンナが軽くアイコンタクトを取る。

スエティアでも、エリアスに関してかなり陰口を言われていた。

妖人2人と無期限生命機械人を共に連れて歩いたら、目立つのは必至だし何より3人が傷つく。

その上エリアスとナッツは、この世界に住んでいいと言う滞在許可証も無いのだ。

ブランティスはすっかり忘れているようだが、これもいずれ片づけねばならない。


よくよく考えて見れば、法律改正以前に目の前の問題は山積みだった。

カインがため息をつく。

とりあえず頭を空にして、だだっ広い湿原を道なりに歩いていると、数百メートル先から凄まじい音が響いてくる。

まるでサンドバッグを叩きつけるような、重量感のある音だった。

「何かな?」

エリアスが不思議そうに首を傾げる。

「とりあえず行ってみようぜ、見なきゃわかんねえ」

他の4人も、カインの言葉に賛同し音のする方へと向かった。






















歩いていると、段々音が近くなってくる。

そして、遠目からその正体が見えてきた。

魔物だ。

先日戦った大樹に引けを取らない大きさの魔物が暴れている。

それだけでカイン達は面食らったのだが、視力のいいナッツは何かを発見すると、ぎょっと顔を一変させた。

「げっ、なんだありゃ!?女が1人で戦ってるぞ!!」

「うっそォ!?あれ相手に!?」

マリアンナが驚嘆し大声をあげる。

だか、更に近づいて見ると、確かにロングヘアーの女性がその魔物を相手にしている。

やたら露出度の高い銀のコスチュームに、黒い腰巻きとストッキング。

頭には、ヘリコプターのような羽がついており、彼女はそれを武器にしていた。

ブランティスが解析し始める。

「…混血型機械人だな」

「はぁぁぁああああっ!!」

その静かな声を切り裂くように、女が雄叫びを上げる。

彼女は蝶のようにひらりと舞い上がると、急降下しながら蹴りを2発入れ、縦に回転しながら頭の刃で牛の肩を斬っていく。

「ダブルオーバードライブ!」

女が技名を言い放った頃には、牛は後方によろめきながら倒れ、女は華麗に着地を決めていた。

牛が倒れた衝撃で大地が震える。

その衝撃に、カインは思わず目を閉じた。

地面がしばらくの間揺れ続ける。

揺れが収まる頃には、女もこちらに気づいたようできつそうな視線を向けていた。

返り血で真っ赤に染まっていてもなお、容姿は美しくプロポーションも抜群である。

開いた胸部からは豊満な胸が顔を覗かせていた。

女は、頭の刃を縮めるとこちらに近づいた。


「ほう…いつの間に見られていたのか」

潤いのある声とは対照的な、女性らしからぬぶっきらぼうな口調で彼女はカインと向き合った。

「あ、ああ…。ここで何してんだろうって」

巨大な牛をたった1人で倒した女戦士に怖じ気づいたのか、弱気な口ぶりでカインは応対した。

「見ての通り、あれと戦っていた」

彼女が牛を示しながらそう言った時、ブランティスの瞳に当たるカメラが赤く光った。

「この女を、私は知っている」

その発言で、ブランティスに注目が集まる。

女自身も、興味深げに彼を見ていた。

「セイレーン・ルミナス。教会が危険視している無所属の女兵士だ」
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