novel#

□白夜伝説 承2
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かれこれ1時間、ずっと山道を歩いていた。

足下の悪い道に坂がいくつも重なっていたため、あっという間に疲労が積み重なる。

「カイ〜ン…ここからコーレンツまで、どんくらいかかるの〜…?」

一番大荷物を抱えていたマリアンナが、息を切らして言う。

「んーっと…そんなに距離なかったはずだけど…もうすぐだよ、すぐ」

「すぐって何よ…出来れば、早く着きたいかも」

マリアンナがふてくされた。

「だが、私達は政府警察に手配されているのでは?」

ブランティスが思い出したように言う。

「だからって、街に入らない訳にいかないじゃない。コソコソしてたら、逆に怪しいもの」

首をブランティスに向けて、マリアンナは切り返した。

その通りだ、とカインは思い、首を縦に振った。


セイレーンが彼女の顔を不思議そうに覗き込む。

「人間、街に何か用事でもあるのか?」

「特にないけど…その呼び方、止めてくれないかな?あたしにはちゃんと、マリアンナって名前があるんだから」

「ふうん」

「えっ…ちょっと何?その薄い反応」

マリアンナがますます不機嫌な顔になるも、セイレーンは冷めた目をしたまま切り返した。

「人間は面白いと思うが、名前に興味はない。顔と呼び名が違うだけで同じ生き物だろうが」

その偏見には、カインも苛立ちを見せて振り返った。

「セイレーン、今のは…」

エリアスも彼女の暴言に突っかかる。

「しっ!」

その時、ナッツが唇に手を当てた。

「周りから色々雑音が聞こえる」

彼に言われて耳をすませてみると、確かに森がざわざわと騒いでいるような気がする。

ブランティスが聴覚機能を調整する。

「…右の林、何かがこちらに向かってくる。複数いるな」

「魔物か?」

兜で耳を塞いでいるため、一番聴力に不自由なレオスが、槍を握りしめて訊き返した。

「来るぞ」

セイレーンが静かに言う。

青い瞳には闘争心が宿っており、もう戦闘体制に入っているようだった。

すると、林の中から何かが沢山、飛び出して道を塞いだ。

魔物かと思ったが、姿形を見て、すぐに否定した。

人間だ。

セイレーンが、目を動かしながらぼそりと呟く。

「13人だな」

「おいお前ら。痛い目に合いたくなかったら金よこせ、金」

男のうち1人が、ナイフを持て余しながら言った。

言動からして、たちの悪い山賊のようである。

「やはり敵か」

レオスが前に出る。

「出さないって言ったら?」

カインが指をパキパキと鳴らして言った。

ナイフを持った男が、狂気じみた目でカインを睨みつける。

「力ずくだ!!」

その一言を皮切りに、一斉に男たちが襲いかかる。

セイレーンが、瞬時に頭の刃を伸ばし、男たちを迎え撃つ。

「はぁっ!!」

勢いよく声をあげて刃を素早く回転させた。

男たちが一瞬怯む。

その隙にカインたちは敵中に雪崩れ込んだ。

容赦なく打撃や斬撃を叩き込んでいく。

カインは、風の魔法を右の拳に溜め、そして放った。

「レオファング!!」

文字通り獅子の牙のような鋭い風が浮かび上がり、そこから発生した暴風が盗賊たちを吹き飛ばしていく。

「うっ、うわああぁぁ!!?」

男たちのうち数名は、木や地面に頭や体を打ってそのまま気絶したようだった。

「ずいぶん弱いな、魔物のほうが歯ごたえがある」

セイレーンがつまらなそうに言った。

男のうち1人が、真っ青な顔をして立ち上がる。

「このままじゃ…やべえ、親分!!親分!!」

男は、おぼつかない足取りで奥にいた髭面の男の元へと駆け込んだ。

ナッツの目が鋭い光をみせる。

「あいつか」

男は情けない顔で、自ら親分と呼んだ男にこいねがう。

「こっ…このままじゃやられる!!助けて下さい、親分…」

その時、髭面の男は持っていた銃を部下の額にあてがい、引き金をひいた。

乾いた音がして、部下の男が地面に力なく倒れる。

その場がしん…と静まり返った。

親分と呼ばれたその男は、険しい顔つきで言い放った。

「そんな弱虫な部下など要らぬ」

どうやら、それが殺した理由らしい。

全員の顔が、この世の物でないものを見たかのような色になった。

「嘘…殺した…」

目の前で殺人を見せつけられ、動揺したマリアンナが口を手で覆いながら言う。

エリアスも、それを見て怖じ気づいたようだった。

カインの後ろに隠れてシャツの裾を引っ張る。

「おい」

カインが、顔に怒りを宿して訊ねる。

「そんなことくらいで殺すこと無いだろ」

だが、男はそれを嘲笑しこちらに拳銃を向けた。

怖じ気づくも、怒りのほうが勝って奴を真正面から睨みつける。

「何をしてでも金は盗らねばならんのだよ。命乞いなど惨めに過ぎぬ」

そう言うと奴は、弾丸を発射した。

「カイン!」

ナッツが声を上げる。

カインは、手を楯にしてとっさに目を閉じた。

だが、それは、カインに当たることは無かった。

キン、と音がして、弾丸は勢いを失い只の鉄くずとなって地面に転がる。

恐る恐る目を開けると、前に立っていたのはレオスだった。

礼を言おうとするも、またもやそんな雰囲気ではないことを察して押し黙る。

「ひとつ訊こうか」

レオスは、ひどく落ち着いた声で言った。

「お前は、命よりも金が大事か?」

男は、その質問にふっと笑うと、こう答えた。

「ああ」

「…そうか」

レオスは、槍を持って構える。

「じゃあ、この先何があっても、文句は言えないな」

カインの位置からは見えなかったが、このとき彼は、冷たい笑みを見せていた。
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