頂き物

□LOVE LOVE LOVE!
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―彼女の嫌いなところはどこですか?=\。
それは、唐突に投げかけられた質問。
俺にではなくて、画面の向こうで女子アナウンサーが街を歩いている男に次々とそんなインタビューをしていた。
どうやらバラエティ番組のコーナーの一環らしい。
回答をもとに男心を分析する、と謳っている。
インタビューを受けた男たちは「香水くさい」とか「不潔なとこ」とか「部屋が汚い」とか―…
自分の彼女の嫌いなところを答えていく。
ブラウン管の向こうで繰り広げられるやりとりに、俺はいつの間にか見入ってしまっていた。
















「彼女の嫌いなところ、か…」
















彼女=\。
その言葉を聞いて、ある女の顔が頭の中に浮かぶ。
俺にも彼女≠ニいう存在がいる。
しかも、俺には勿体ないくらい可愛い彼女―ミョウジナマエ―が。






俺はナマエのことが好きで好きで、どうしようもないくらい愛しく思う。
昔からずっと、この感情は変わらない。
現にいまも、ナマエのことを思ってドキドキしている。






そんな彼女の嫌いなところなんてあるのだろうか。
もう十数年の付き合いだ。
嫌いなところの一つや二つ、あってもおかしくない。






少し探してみようと、目を閉じて思考を巡らせてみる。
















「嫌いなところ…嫌いなところ…」
















彼女は横暴だし、強引だし、乱暴だし、わがままだ。
多分俺は、周りから見たら相当理不尽な仕打ちを受けている。
甘いものが食べたいから何か買ってこいとか、お菓子のごみを捨ててきてだとか―
そういえばストレスがたまってるから殴らせろと言われて痛い思いをしたこともあったっけ。






だけどそれらを一度も嫌だとか、面倒くさいとか、思ったことはなかった。
大好きで大好きなナマエの役に立てるのなら、何だってできるし、したいと思う。
それでナマエが喜んでくれて、笑顔になってくれるのなら、これ以上に嬉しいことはない。
我ながら人が良すぎるとは思うけど…いや、マジで。






だからナマエの彼氏には、俺が世界で一番ふさわしいと思う。
それが俺の誇りでもあった。
















「やっぱり俺、好きなんだよなぁ」
「何が好きなの?」
「うわぁあッ!?」
















不意に真横からひょこっと顔が現れて、心臓が飛び跳ねる。
一瞬、心臓とまったかと思った。






現れたのは、いままさに思い浮かべていた彼女だった。
ナマエは俺の驚きっぷりを見て、ニヤニヤといたずらっぽく笑う。
















「そんなに驚くなんて、エロビデオでも見てたの?」
「違うよ。これ…普通にテレビだよ」
「なんだ。どんなの見てたの?」
















どかっと俺の隣りに腰をおろし、テレビをまじまじと見始めるナマエ。
番組はちょうど中盤で、さっきのインタビューの結果をランキング形式で発表しているところだ。
彼女の嫌いなところ1位は「片付けができない」らしい。
俺は咄嗟にそれをナマエに当てはめて考えてみたが、ナマエの部屋はいつも綺麗に片付いている。
というより、必要最低限のものしかない殺風景な部屋だから、正確には片付けるものがない≠ゥもしれないが。
世間の男は彼女のそんなところに苦労してるんだなーと、俺は誰と張り合うわけでもないのに優越感を覚える。






一人ニヤついていると、ふとナマエの表情がどこか暗くなっているのに気づく。
どうしたの?と声をかけると、彼女は俺の胸倉をぐいっと引っ張ってきた。
急に距離が縮まって、俺の心臓はまたドキッと跳ねる。
今日は本当に心臓に負担をかけている。
そんなことを考えていると、ナマエはさらに俺に迫ってきて強気な口調で言った。
















「これ、退はインタビュー受けてたら何て答えたの?」
「えっ?俺?俺は…」
















答えようする前に、ナマエの瞳が不安に揺れていることに気づいた。
態度こそ強気だけど、俺の回答に怯えている―そんな印象を受けた。
逆の立場だったら、俺はいまのナマエ以上にビクビクしているだろう。
嫌いなところなんて、知りたくない。
いや、そんなこと、思われてたくない。
当たり前だ。
ある種恐ろしいくらい―大好き、なんだから。






ナマエも同じ気持ちでいてくれていることが分かって、嬉しくてたまらない。
やっぱり、顔の筋肉が緩んでしまう。
「気持ち悪い」と一蹴されたけれど、抑えられなかった。
彼女を抱きしめずにはいられなかった。
















「俺なら―」
















一瞬、ナマエの身体がびくっとする。
俺は抱きしめている腕の力をより強くして囁いた。
















「『彼女の何もかもが好きすぎて嫌いなところが見つかりません』って答えるよ」
「っ…!ばっか、じゃないの…」
















強張っていたナマエの身体から力が抜けていくのが分かって嬉しくなる。
俺の言葉で、安心してくれたんだ。
それと同時にナマエの顔が真っ赤になっているのが、見えなくても分かった。
こういうところが本当に、反則的に可愛いと思う。
















「ナマエだったら何て答えるの?俺ばっかりはずるいよ」
「私は…」
「この際、俺の嫌なところとかあるんだったら言ってよ。治すし。ナマエに嫌われたくないしね」
「っ…私は!」
















一際大きな声をあげて、ナマエは俺の唇に―キスを、した。
勢いがよすぎて触れるというよりぶつかったといった方が正しいキスだけど、
まさかキスされるとは思わなくて、俺は驚きと嬉しさのあまり言葉を失った。
















「私は…『へたれでみんなの使い走りで弱っちい彼氏だけど嫌いなところはありません大好きです』って…答えます」
















―ああ、本当に。
俺は幸せだ。






人は幸せすぎると、勝手に笑みがこぼれる生き物なんだな。
俺はナマエの身体を少しだけ離して視線をあわせ、小さく笑った。
















「何か俺ら…バカップルみたいだね」
「…そうだね。ったく、誰のせいよ…」
「お互い様でしょ?ナマエも俺のことが大好きでたまらないんだから」
「はいはいそうですね。あんたも、私のことが大好きなくせに」
「よく分かってるじゃん」
「ほんと…バカ…」
















恥ずかしそうに震えるナマエの唇に、俺はそっと自分の唇を重ねた。
















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*あとがき*


5th企画21作品目は山崎です!
21品目にしてようやく山崎を書きました…!(笑)
シチュや設定はおまかせとのことだったので、好きに書かせて頂きました!
甘い夢というよりは…ただのバカップルになってしまって^^;
山崎、ヒロインちゃんのこと好き好き言いすぎですね。
い い と 思 い ま す 。
自由に書きましたが…お気に召していただければ幸いです^^
リクエストありがとうございました!




















(C)Fetishism.98/seri-sakurai

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