頂き物

□私は友達
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「俺、好きな人が出来たんだ」

へらっと笑って海士がそう伝えてきた。
それは、私達が二年になったばかりの頃の事だった。







『へー、誰々??』

「ナマエとよく一緒に居る隣のクラスの子!!」

あ、分かった。
海士はきっと麻衣子ちゃんの事を言ってるんだろう。
麻衣子ちゃんはとても優しくて笑顔の可愛い子だ。
海士もその笑顔にやられたに違いない。

「そんでさ、ナマエにお願いがあるんだけど…」

『ん??』

「協力してほしいんだ。ナマエ、麻衣子さんと仲いいだろ??」

私は海士の言葉に快く頷いた。
幼なじみの海士の力になりたい。
この時はその想いでいっぱいだった。







『海士、麻衣子ちゃん彼氏いないって』

「マジで!?」

今度絶対話し掛ける、と
宣言した通り、海士はわざわざ隣のクラスまで行って麻衣子ちゃんに話し掛けていた。

海士楽しそうだし、麻衣子ちゃんも満更でもなさそう。
「もし駄目そうだったらすぐ助けて!!」なんて言われてついて来たけど心配なさそうだ。



「ナマエ〜」

『あ、海士どうだった??』

「話せた!!向こうも笑ってくれたし…。…それより、ナマエ!!先に教室帰るなんて酷すぎっしょ!!」

でも、あのまま教室の扉の前に居ても通行人の邪魔になるだけだし…、と少し困ったように言えば海士は何かを考えるようなポーズをして「そうだ!!」とにんまり笑った。

「今度からナマエも一緒に話せばいいんだ!!」

『…うーん??』

普通は好きな子と二人で話したいものなんじゃないの??
なんて思ったが言わないでおいた。
私も海士と話すのが好きだし、海士がいいなら…いいのだろう。











海士の性格なら仲良くなるのにそう時間はかからないだろうと思っていたが、そのとおりだった。
二人は私の目から見ても分かる程、急激に仲良くなっていっていた。
そんなある日、休日に麻衣子ちゃんが二人で遊べないかと聞いてきた。
えらく真剣な表情をしていたので戸惑ったが、その日は別に用事もなかったから…。
私は麻衣子ちゃんに誘われるがまま彼女の家に遊びに行った。



「ナマエちゃんと一緒にクッキーを作ろうかなって思って」

『クッキー??』

何故クッキー??と思ったけど細かい事は気にしないでおいた。
前に麻衣子ちゃんのクッキーを食べさせてもらった事があったけど、本当に美味しかった。

あのクッキーが食べられるなら理由なんて別にどうでもいい。
私は手際良く材料の準備をしている麻衣子ちゃんを見ながらそんな事を考えていた。

「ナマエちゃん」

『んー??』

「浜野君ってどんなクッキーなら喜ぶかな??」

『…海士??海士は普通よりも少し甘めのクッキーかな。形は魚だろうね、釣りが好きだし』




そっか、麻衣子ちゃんは海士にあげる為にクッキーを……。

というか、麻衣子ちゃんも海士の事が好きなんじゃあ…??


「ナマエちゃん」

『??』

「私ね、このクッキーと一緒に浜野君に想いを伝えようと思うの」


…やっぱり麻衣子ちゃんも海士の事が好きなんだ。
じゃあ、二人は両想いじゃないか。

「…ナマエちゃん?」



『…うん、いいと思う。麻衣子ちゃんのクッキー凄く美味しいし、海士も喜ぶよ』

「本当っ??だと、いいな…」

そう笑う麻衣子ちゃんは女の子の私から見ても可愛く見えた。
恋する女の子は可愛いって言葉は本当なのかもしれないな。



私は、魚形ではないクッキーをたくさんもらって帰る事になった。

『ありがと』

「こちらこそ。ナマエちゃんの言葉が凄く励みになりました」

嬉しそうな麻衣子ちゃんを見て、これからは海士だけで隣のクラスに行かせようと思った。

これから二人は付き合う事になるんだろうな、なんて考えて何故か胸がズキンと痛んだ。













「ナマエ、今日も隣のクラスに行きますか!!」

いつものように笑いながら海士がこちらに駆け寄ってくる。
そんな海士に私は苦笑いで答える事しか出来なかった。

『…私はいいや、海士だけでいきなよ』

「え〜、なんで??」

なんでなんで、としつこい海士に『頭痛いから保健室に行くの』と少しきつめに言ってしまった。

だけど、私の口調なんて気にせずに、海士は私の体調を気にかけてくれているらしく、眉を下げて不安げにこちらを見つめてくる。

「俺も着いてく。…キツイんだろ??」

『…一人で大丈夫だから』

そう言って私は海士の返事を待たずに廊下を飛び出した。

ナマエ!!って海士が名前を呼ぶのが聞こえたけど…無視した。
何だか本当に頭が痛くなってきた気がするから、出張で先生がいない保健室で五・六時間目をサボることにしよう。













『…ん』

「あ、ナマエ…」

目を開けると安心したような笑みを浮かべる海士と目が合った。

『えと…』

保健室…??

…あぁ、そうか。
私は此処で五・六時間目をサボったんだった。

『ごめん、わざわざ来てくれたんだね。鞄まで持って来てくれてさ』

「これくらい気にしなくていいって」

そう笑う海士に何も言えなくなって私は口を閉じる。
暫くの静寂が私達を包んだ。

「俺さ…」

静寂を破ったのは海士の方だった。

「麻衣子さんに告白されたんだよね」

はは…と恥ずかしそうに笑い海士は照れ隠しに頬をかいた。

嬉しそうな海士を見て何だか悲しくなった。
何故悲しくなったかは分からない、けど…凄く悲しくなったんだ。


『よかっ、たね』

なんだか皮肉っぽい言い方になってしまった事なんて気にならなかった。

今にも零れそうなそれを隠す為に俯いた瞬間、重力に逆らえずに零れ落ちたそれがベッドにシミをつくった。
そのシミを見て、私はやっと自分の気持ちに気付く事が出来た。

…私も海士の事が好きなんだ。
今まで応援とかしてきたけど、本当は色々苦しくて…。

「え…ちゅーか、ナマエ泣いてんの…??」

ぼろぼろと涙が溢れ出る。
その涙を見て海士は戸惑ったように目を揺らがせた。

「何だよ…どっか痛いのか…??」

『…ううん、違う』


泣く程嬉しかったんだよそう言って無理に笑えば、涙がさらに溢れた。


「ナマエ…」

今…此処で海士に告白してみたらどうなるんだろうなんて考えてみたけど、怖くなってその想像を掻き消した。




















私は友達




それ以上でも、それ以下でもないんだ。








珠亜様、遅れて申し訳ありませんでした…!!
それにありきたりな話ですみません><
書き直しなどいつでも受け付けます!!
この度は相互ありがとうございました^^*

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