季節ネタ
□神童
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「これどうぞ」
「…え?」
恥ずかしいから早く受け取ってよ、と自分にしては可愛くラッピングできたと思う小包を神童に差し出せば、神童はわかりやすすぎるくらい動揺した顔で聞き返してきた。
「えっと…俺に?」
「他に誰がいるんですか」
「そう、だよな」
最初の予定では、ここで渡してじゃあまた明日、という甘いことは割愛した普通のバレンタインにするはずだったのだが、中々神童が受け取ろうとしてくれない。
…そんなに私のは欲しくないのか。
もう既にたくさん貰ってしまい私のなんていらないのか。
動揺だけなら神童はシャイだから、で済ますことができるが、すんなり受け取ってもらえないとそんな風に考えてしまう。
「…ごめん、無理に受け取れとは言わないから」
なんだかもう悲しくなってきて差し出してたお菓子を引っ込めようとすれば、待て、と腕を掴まれた。
「なに」
「受け取らないなんて言ってない」
じゃあ早く貰ってくれ。
そんな風に切実な思いを込めて見ると、神童は気まずそうに目を逸らした。
「えっと…俺、今年は女子からのチョコ貰ってないんだ」
「じゃあこれも…」
なら早く言ってよ、と再び引っ込めようとしたら、最後まで聞け、と焦ったような声と共に私の腕を掴む力が強まった。
「本命だとしたらその気持ちにはこたえられないからっていうのと、今年は俺が想ってる奴からしか受け取らないって決めてたんだ」
「へえ…」
こういうことぐらい貰っておけば、とも思うが、意外と神童は義理堅いらしい。
…今年こいつに泣かされた女子は何人いるんだ。
いや、私もこれからその一人になるだろうけど。
そんなことを考えていれば、だから、と神童が続きを口にした。
「ナマエのそれは、受け取らせて、欲しい…」
神童もだんだん恥ずかしくなってきたのか、語尾が消え入りそうな声である。
…でも、私にとって気にするべきことはそこじゃなくて。
「えっと、それは…」
この話の流れだと…そういうこと?
期待してもいいのだろうか。
顔に熱が集まってくるのを感じながら尋ねてみれば、そういうことだ、と真剣な表情で言われた。
「義理でも、構わない。ナマエからのが、欲しかったんだ」
「…味、自身ないよ?」
「それでもいい」
最初は早く受け取れなんて思っていたくせに、自分勝手だとは思いつつ訊いてみれば即座に返される。
「じゃあ…ハイ」
ちょっと迷いながらも渡せば、あの優しい笑顔でありがとう、とお礼を言われる。
「何か強引で悪い…。…さっきの、返事はいつでもいいから」
じゃあ、また明日、と気まずそうに歩き出そうとした神童を呼び止めれば、何でここで呼び止めるんだ、というような、少し泣きそうな表情で振り返った。
「えっと、その…」
いざ、この言葉を言おうとしたら緊張と恥ずかしさで声が掠れそうになる。
…でも、大丈夫。気持ちを込めて作ったお菓子を受け取ってもらえたんだもん。
そう自分に言い聞かせて、私は口を開いた。
「それ、本命だから!」
そう言った瞬間、再び熱が顔に集まるのを感じたと共に神童の腕に抱き寄せられた。
聖バレンタインデー
「その…改めて、よろしく」
耳元で囁かれた声に大きく頷いて、私も神童の背中へ腕を回した。
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何コレ温っ!
ほのぼのとか甘っていうより温っ!
イケメンな神童さんを希望していた30分前の私どこ行った。