イナイレ
□誘惑
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「助けてください」
「無理だ」
…ナマエからのお願いをキッパリ断ったわけだが、先に言っておく。俺は非情じゃない。
「どうしても?」
「どうしても。…大体、」
なんでテスト前日まで提出物を溜めておいたんだ、と訊くと、ナマエは目を逸らして「誘惑に勝てなかったんだもん」と言った。
机の上には英語のワーク。
提出日は明日。
それにナマエは全く手をつけておらず、今俺に助けを求めているわけである。
「だってテスト前って、勉強以外のことしたくならない?」
「その誘惑と戦うのが学生だ」
「そんなかたいこと言わないでよ」
自分でも、かたいことを言っている自覚はある。
でも、これではいつまで経ってもナマエは自立できないだろう。
そんな父親めいたことを考えていると、ナマエがパンッと手を合わせた。
「お願い!一郎太の言うことなんでもきくから!」
「…なんでも?」
聞き返せば、そう、なんでも、と答える。
なんでも、か。悪くはな…いや、誘惑と戦うのが学生…
俺の葛藤を知ってか知らずか、ナマエが腕に抱きついてくる。
「お願い!」
上目づかい、可愛いな。
…て、そこじゃなくて。
「…ったく…半分は自分でやれよ?」
誘惑
こいつ、絶対わかっててやってる。
それを承知の上で甘やかす俺も、まだまだだよな。