イナイレ

□不思議な魔法
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「ねえ」

夕食を食べ終わり、お皿を片付けようと立ち上がったら、ヒロトに声をかけられた。

「な、なに?」

「ピーマン、残ってるよ」

「…」

そう、今日のメニューには、私の嫌いなピーマンが入っていた。

元々残す気でいたから、誰かに見られる前にかたしたかったんだけど…

よりによって、ヒロトの前になんて座るんじゃなかった。

「全部食べなきゃ…ね?」

…そんな笑顔で優しく言われても。

「いやぁ…」

と言葉を濁しても、相変わらずの笑顔でこちらを見てくる。

「もしかして、ピーマン嫌いなの?」

「…」

答えない代わりに視線を逸らすと、「じゃあ…」と何か話を切り出された。

「はい、あーん」

「…は?」

視線を戻せば、ヒロトは自分の箸でピーマンを掴んで、私に差し出してきた。

「…なにやってんの?」

「何って、あーんだけど」

「いやいや、そうじゃなくて。なんであーんなの。何でヒロトの箸なの?」

「そりゃあ、ナマエと間接でもいいからキスを…」

「ごめん、聞いた私が馬鹿だった」

しかし、なおもヒロトは手を引っ込めようとしない。

「…やっぱり、食べなきゃ駄目?」

「もちろん」

「…っん」

意を決して、ピーマンに食いついた。

噛めば噛むほどに口の中に味が広がって、なんていうか…吐きそうだ。

「うぅ…」

やっぱり、嫌いなんだから食べなきゃよかった。

ヒロトの口に入れてやるんだった。

あまりの不味さに目の前が滲んできた時、ふと、頭を優しく撫でられた。


「よくできました」




不思議な魔法

アイツが優しく撫でてくれたから、嫌いなものを食べるのも案外悪くないかも、なんて思ってしまった。

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