イナイレ

□ゆきあいの空
1ページ/1ページ

「散歩行かない?」

部屋で雑誌を読んでいたら、ナマエが窓から顔を覗かせた。

「急にどうしたの?」

「暑さが和らいできたから、散歩したいなーって思って」

「じゃあちょっと待ってて」

用事があるわけでもないから、雑誌を閉じ靴を履きに玄関に向かう。


「お待たせ」

靴を履いて外に出れば、ナマエは玄関の横に座っていた。

「いきなりごめんね」

そう言って立とうとしたナマエに手を差し出せば、ありがとう、と言って手を握って立ち上がる。

「大丈夫だよ、暇だったし。ところで、どこ散歩に行くの?」

「森の予定」

手を繋いで、グランドの横を2人で歩く。
途中、自主トレをしていた晴矢と風介に冷やかしを受けたけど、見せつけてやろうか、なんて笑いながら通り過ぎた。


「でも、随分草の元気がなくなってきたね」

「そう言われてみればそうかも」

お日さま園から森へ続く道を歩き、呟く。
ちょっと前まではあんなに元気に茂っていた草たちも、どこかしゅんとしている。

「…もう、ツクツクボウシが鳴いてる」

「うん」

そのまま歩く。
会話は少ないけど、この時間がとても愛おしく感じた。


「…あのさ」

木漏れ日を眺めながら話しかければ、何?と聞き返してくる。

「ナマエ、好きだ。…愛してる」

「私も」

どうしても伝えたかった。
自分でもよくわからないけど。
ありきたりな言葉で表すなら、好きという気持ちが溢れたというか…。



「でも、季節の変わり目ってなんか切ない気持ちになるよね」

「え?」

突然の言葉に思わず聞き返せば、ナマエはふわりと笑った。

「切なくなるとさ、好きな人と一緒にいたくなる」

「だから、散歩に…?」

そう訊けば、照れくさそうに頷いた。

切なくなると好きな人と一緒にいたくなる、か。
…だから、気持ちを伝えたくなったのかな。


「…戻ろうか」

森の半分くらいまで来たところで足を止めてきけば、ナマエは空を見上げて頷いた。

「そうだね」


来た道を振り返る。

セミたちの合唱をバックに、ナマエの真似をして空を見上げれば、少し前までは湿った色をしていた空が乾いた色に変わり、青く澄んでいた。



ゆきあいの空

もう、夏も終わりだ。





----------------------->
ゆきあいの空…天声人語より。
雨の後に高い天に刷いたような雲が浮かんだ、夏と秋がすれ違う空のことを言うらしいです。

陽射しが強いのに風が冷たく乾いてたりすると、秋だなーって感じます。
特に、体育祭の練習のときに感じることが多かったですw

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ