イナイレ
□ゆきあいの空
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「散歩行かない?」
部屋で雑誌を読んでいたら、ナマエが窓から顔を覗かせた。
「急にどうしたの?」
「暑さが和らいできたから、散歩したいなーって思って」
「じゃあちょっと待ってて」
用事があるわけでもないから、雑誌を閉じ靴を履きに玄関に向かう。
「お待たせ」
靴を履いて外に出れば、ナマエは玄関の横に座っていた。
「いきなりごめんね」
そう言って立とうとしたナマエに手を差し出せば、ありがとう、と言って手を握って立ち上がる。
「大丈夫だよ、暇だったし。ところで、どこ散歩に行くの?」
「森の予定」
手を繋いで、グランドの横を2人で歩く。
途中、自主トレをしていた晴矢と風介に冷やかしを受けたけど、見せつけてやろうか、なんて笑いながら通り過ぎた。
「でも、随分草の元気がなくなってきたね」
「そう言われてみればそうかも」
お日さま園から森へ続く道を歩き、呟く。
ちょっと前まではあんなに元気に茂っていた草たちも、どこかしゅんとしている。
「…もう、ツクツクボウシが鳴いてる」
「うん」
そのまま歩く。
会話は少ないけど、この時間がとても愛おしく感じた。
「…あのさ」
木漏れ日を眺めながら話しかければ、何?と聞き返してくる。
「ナマエ、好きだ。…愛してる」
「私も」
どうしても伝えたかった。
自分でもよくわからないけど。
ありきたりな言葉で表すなら、好きという気持ちが溢れたというか…。
「でも、季節の変わり目ってなんか切ない気持ちになるよね」
「え?」
突然の言葉に思わず聞き返せば、ナマエはふわりと笑った。
「切なくなるとさ、好きな人と一緒にいたくなる」
「だから、散歩に…?」
そう訊けば、照れくさそうに頷いた。
切なくなると好きな人と一緒にいたくなる、か。
…だから、気持ちを伝えたくなったのかな。
「…戻ろうか」
森の半分くらいまで来たところで足を止めてきけば、ナマエは空を見上げて頷いた。
「そうだね」
来た道を振り返る。
セミたちの合唱をバックに、ナマエの真似をして空を見上げれば、少し前までは湿った色をしていた空が乾いた色に変わり、青く澄んでいた。
ゆきあいの空
もう、夏も終わりだ。
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ゆきあいの空…天声人語より。
雨の後に高い天に刷いたような雲が浮かんだ、夏と秋がすれ違う空のことを言うらしいです。
陽射しが強いのに風が冷たく乾いてたりすると、秋だなーって感じます。
特に、体育祭の練習のときに感じることが多かったですw