イナGO
□立秋
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「今日って立秋なんですね」
「へぇ。それにしては暑いな」
今日からは暦の上では秋になる。
しかし、そんなことはお構いなしに太陽の輝きが衰えることはない。
「にしても暑いな」
「二回も言わなくていいです」
扇風機の前という特等席は私に譲ってくれてるが、どうしても汗が出てくる。
それに比べて、南沢先輩は全くかいてない。
「なんでそんな涼しそうな顔なんですか?」
「さっきから暑いって言ってんだろ」
「でも、秋っていいですよね」
「…は?」
いきなり話題を変えた私に、先輩が顔をしかめる。
「お月見とか楽しいじゃないですか」
「渋いな」
「お月見ナメないでください、心が浄化されますよ」
「意味わかんねぇよ」
そんな風に私が一方的に語るのも、いつものこと。
すると、先輩が何かを企てた時の笑顔でこっちを見た。
「んじゃ、私ちょっと…」
先輩がこういう笑顔のときはろくなことを言わないので、この場から立ち去ろうとすると腰を掴まれて元の位置に戻された。
「じゃあさ、秋になったら月見しようぜ?」
「…え?」
「その代わり、月見団子作ってこい」
いや、そんな「名案だろ」みたいな顔
で言われても。
「先輩のが渋くないですか。っていうか作り方知りません」
「おばあちゃんにでも聞け」
マジで?という顔で先輩を見れば、マジで。という顔をされた。
「…しょうがないなぁ。十五夜になったらですよ」
「あぁ。楽しみに待ってる」
立秋
なんだかんだで、今年のお月見は楽しくなりそうだ。