イナGO
□何もない日のプレゼント
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※高校生設定
「どうすればいいんだよー、もう!」
「何だよいきなり」
ああっ!と頭を抱えれば、隣の席の霧野が不思議そうな顔で問いかけてきた。
「何かあったのか?」
「進路だよー…」
そう、文理選択の提出期限が明日までなのだ。
将来やりたいことが決まっていなくても、大学受験のために今のうちに来年から学ぶ教科を決めないといけない。
「やりたい職業とかないのか?」
「いっぱいありすぎて決められないの」
「逆に、か…」
文系に進まなきゃなれない職業もあるし、理系に進まなければなれない職業もある。
「どうしようかな…」
机に突っ伏せば、「まあ、残ってる時間でじっくり考えようぜ」と諭される。
「でも、たしかに提出期限短いよな。将来のことだからもっとじっくり考えたいのに」
「そうだよね」
俺も決めんのすごい迷った、と霧野が同意してくれる。
こんなに迷うのなら、いっそのこと嫌いな科目が少ないほうを選んでしまおうかとも思うけど、この1週間ちょっとの期間で決定したことが後々の人生に大きく影響すると考えると、適当には決められない。
はあ、とため息をつくと、霧野が困ったような表情で口を開いた。
「ナマエの人生だから、俺がとやかく言うことはできない。…でも、絶対後悔すんなよ?」
「…うん」
心底もどかしそうな表情をしている霧野に申し訳なく思いながら、再び文理選択のプリントに目を落とす。
すると、視界の隅に小さなパステルカラーが見えた。
「?」
「俺の出られる幕はないから、代わりに応援の意を込めてプレゼント」
そう、照れ臭そうに霧野が差し出したのは、私が好きないちご味のキャンディだった。
何もない日のプレゼント
「…ありがとう」
そんなさりげない心遣いが、私の背中を押してくれた。