D・W U

□Episode.56
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少しの時が流れ、不意に穏やかで
柔らかな風が森の奥から息吹く。








同時に耳を立て、閉じていた目を開け狐は
素早くアリスの前へ立つと、森の奥を
鋭く見据えた。


まるで、そこに在るものから
アリスを守るかの様に。






    「?どうしたの、キツネさん…」






不思議そうに狐の姿を見つめては
同じ様に、森を見つめるアリス。






すると、奥を見据え続け
鋭い空気を纏っていた筈の狐は
突如 纏う空気を和らげた。


振り返り、首を傾げたアリスを一目に
突拍子なく見ていた場所と違う木々へ
走り去っていく。






今となっては見えなくなった姿を
呆然としながら、小さなアリスは
突然現れ、突然去っていった狐に
どうしたのだろうと首を傾げたまま。








      ━━━━━ガサッ








不自然にも突如鳴った、草の音に
反射的にゆっくりと振り返る。




背後に在ったものに大きな茶の瞳を
目一杯に開いた。























    「どこまで行ったのかしら…。


     私達の気配は判る筈だから
     こっちに向かってるとは
     思うけれど……」








落ち着きなく辺りを見回しては
溜め息をつくマリアに、アリアは思わず
苦笑を零す。








    「…そうかしら?


     案外、近くで
     見守ってくれているのかも」








変わらぬ笑顔。しかし、それは意味深で。

怪訝そうに見つめ返すが 直ぐに言動の
裏を気づいたのか、マリアは目を閉じる。








    「…成程ね。あの心配性は
     やっぱり私の影響かしら」








本日、何度目かの溜め息をつき、マリアは
呆れ顔で苦笑いを浮かばす。










    「だけど、心配性(それ)は
     私達の事を思ってくれている
     証拠でしょう?」








「本当に優しい子だわ、貴女達は」



慈悲深い微笑みを携えたアリアに目を
見開いたと同時に、柔らかくそれを細めた
マリアの思考は見えない。





























      「、月夜…っ!!」








背後に居たその姿を瞳に入れるや否や
勢いよく飛びついたアリス。





唐突の行動に対処しきれなかったのか
アリスに抱きつかれたまま、後ろへ倒れ
座り込む、月夜(ツクヨ)こと夜。








     「ア、アリス…

      変わらず元気だね」








首に手を巻きつけ、抱きついてくる
アリスに片眉を下げて問えば、元気な
返事と笑顔が返ってきた。


































     「月夜もマリアといっしょに
      きてたんだねっ♪」








実に嬉しそうな顔をするアリスに思わず
夜は表情を綻ばす。






    「うん。はぐれちゃったけどね



     アリスは何をしてたの?」






見たところ、花冠を作ってる様だけど



アリスの手にある物を覗き見て訊くと








    「マリアにプレゼントするの」








立ち上がり、くるりと一回りして
柔らかく微笑んだ。
それはアリス自身の母を思わせる様な微笑。








     「…あ、そうだっ


      月夜っ みてみて!」








突如思い出した様な声に、アリスの
差し出された手元を見つめた。






      「? 四ツ葉…?」






そこにあったのは、小さくも四つの葉が
平等に分かれた四ツ葉のクローバー。








    「そう!月夜にあげるっ」








壊れ物を扱う手付きで、両手に包み込み
呆然としていた夜へ手渡す。















    「────月夜にしあわせが
     おとづれますようにっ」















大人びた笑みを携えながらも、年相応な
無邪気さも窺える言葉に 夜はそっと
アリスからそれを受け取ると穏やかな
笑みを浮かべ 目の前の少女へ紡ぐ。








       「ありがとう」








ただその一言に想いを乗せて。




































    ある女が忽然と消えた直後


    わ た し
   の少女≠ヘ世界からえた。
























     ────to be continued...


















     時を遡り過去(やみ)へ

     時を巡り未来(ひかり)へ





     すべてを繋ぎ合わせ

     記憶は浮かび

     やがて死した時が生まれ変わる
























 2012.05.22
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